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『ナナミンちゃんねる♡』2043/07/25 20:27
配信タイトル:【コラボ】あの阿修羅さんと!まったりお散歩♡【横ダン第三】
現在の同時接続数:二三〇万人突破
SNSトレンドランキング:世界第一位
エルチャ総額:四九六万七八〇〇円
検索サジェスト:ナナミン 阿修羅 オーガヒーロー ニャーサーカー 階層主 ソロ撃破 マンチカン 横ダン 第三
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「ふっ、流石は、あの花宮 加奈というわけですか……私に堕ちない女性は珍しい。益々、貴女のことが欲しくなりましたよ」
「それは失礼。貴方程度に惑わされるような鍛え方はしておりませんので……あら、ようやく……――っっ!?」
「な、なんだ、あれは……」
まさに一触即発といった雰囲気の中、階層主部屋の砂埃が落ち着き、視界が晴れたことで、当事者を除いたすべての者が驚愕することに。
膝から崩れ落ちているオーガヒーロー、そこに頭部は無く、その断面は、あまりにも整いすぎていた。肝心の頭部は、うつ伏せに倒れたオーガヒーローのすぐそばに落ちている。
頭部の落ちている位置から察するに、阿修羅がオーガヒーローの肩に着地した際に、なんらかの方法で斬り落としたのだろうと、そこにいた者も、ようやく配信画面が正常に戻ったナナミンちゃんねるの視聴者も推測。
その推測は正しく、その時の阿修羅の様子を捉えていた一部の視聴者が、オーガヒーローへの攻撃方法を言い当てていた。
カッターでも、包丁でも、ナイフでも、スパッと何かを勢いよく切れた時ほど、音は鳴らない。刃物とはそういうものである。
さて、阿修羅ほどの使い手が、真剣を握ったとしたら――それも、ただ斬ることにのみ特化した技を用いたとしたら、どうなるか。
音を置き去りにして、斬るべきものを空間ごと断つ、必殺の技術。それが、抜刀術とも呼ばれる居合、その本質であり、オーガヒーローの首を真一文字に両断した一撃の正体。
だが、阿修羅からしてみれば、斬るべくして斬っただけのこと。特別なことは何一つない。
上から下に水が流れ落ちるのが当たり前であるように、剣を握れば斬るべきものを斬る、それが阿修羅と呼ばれし剣士の本質である。
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(カ、カカカ、カナさま!?)
さて、対オーガヒーロー戦は、阿修羅に軍配が上がり、舞台の幕が下りた。つまり、ここからは楽しい楽しい剥ぎ取りタイム、なんてことを考えていたナナミン。いざ剥ぎ取り!、と意気込みながら辺りを見回すと、階層主部屋の入り口付近に誰かがいることに気付く。
ナナミンの場合、使用武器の関係上、スキル構成が目に関するものになる。そのため、遠くのものを視認可能にするスキルである『遠視強化』が無意識に発動したナナミンが、その存在に――シークレット・ナインの一人である、あの花宮 加奈が、この場に来ていることに気付く。
(いやー、相変わらずの美人さん、綺麗な赤髪だなー……げっ!?)
その端正な顔立ちと情熱的な心を示したかのような綺麗な赤髪、サバサバしながらも丁寧で優しい言動などに加え、シークレット・ナインとしての地位に胡座を掻くことのない高潔な立ち振る舞いから、女子の人気も高い。男性人気は言わずもがなである。実際、ナナミンのような同性のファンも多く、カナさまの愛称で親しまれている。
そんな彼女とは対称的な存在、真っ当な探索者や傭兵たちから嫌われている者のひとりを、ナナミンは視界に捉えてしまった。
(うわぁ、カルマじゃん……ホントキモいんですけど……カナさまに近寄らないでほしい)
一つ目、カルマの容姿が整っていること――見た目の良し悪しが、探索者や傭兵の実力に繋がることは絶対にありえないが、どうせ組織に属すなら自分好みの見た目の上司の方が良いというのは、いつの時代も変わらない真理である。
二つ目、所属人数が多いこと――命に関わるダンジョン探索において、数は力になる。それは間違いないことであり、規模の大きいクランだからこそ安心する女性が多いのも道理である。
そして、三つ目。この理由こそが、傭兵クラン『ルミナス』に女性の入団希望者が絶えない理由であり、離反者が少ない理由であり、ここまで規模が大きくなった最大の理由。
それは、カルマという傭兵が、強者であるということ。そのことに、紛れも間違いも疑う余地も無い。A+級ライセンスは、決して飾りではないのだ。
「――お、発見!」
視界の端っこにカナの姿だけを収めながら、オーガヒーローから必ず採取すべき物をナナミンが発見、抱きかかえるようにして、配信用魔導ドローンに見せつける。
そして、ナナミンちゃんねる、再び、沸く。ナナミンが抱えてるそれは、祭りのフィナーレにふさわしい最高の出し物の如き、とんでもない逸品なのだ。
異世界からの侵略者は多種多様。だが、その体内には必ず、それが有る。そして、それの大きさは敵の格、システムメッセージ曰く――
今回、阿修羅が斬り伏せたオーガヒーローのレベルは、実に――四三八。二階層の階層主オーガジェネラルの二七六を大きく上回る。
実際、ナナミンが抱えているそれ――魔石と呼ばれる素材の大きさは、直径五〇センチメートル超の巨大魔石で、過去最高クラスの代物、その価値は高い。
例えば、探索者ギルド主催のオークションにおいて、この魔石の開始価格は、日本円にして――
ダンジョン探索には夢とロマンが盛り沢山、つまりは、そういうことである。