日本時間の午前十時。
私は青色と白色の聖女の戦闘服に着替えて、杖を持った後、カメラの前に立ち、配信を始めた。
「どうもっす! 勇者チャンネルの聖女、シャンテルっす!」
配信を始めて数分。早速、コメントが書き込まれていく。
◇コメント
『聖女様の萌え袖可愛い~!』
『眼球緑っぽいっすね』
『聖女様のスカートの中を覗きたい』
『勇者様とはそういう関係なんだろうなぁ』
おかしいなぁ。ダンジョンに関係ないコメントが大多数だ。
「鈴木のアニキとはそんな関係じゃないっすから!?」
◇コメント
『あら~!』
『顔真っ赤だよ聖女様』
『恋してる聖女様可愛い』
埒あかなさそうっすし、こういうコメントは無視しようっす。
そうこうしてるうちに鈴木のアニキの準備が終わったようだ。
「シャンテル。なんてコメント届いてる?」
「……『勇者様とはそういう関係なんだろうなぁ』っすかね?」
配信を見てる方々的には多分期待はずれな答えになるだろうっすけど、鈴木のアニキは多分……
「勇者様じゃなくて鈴木なんですけど!」
こう答えることは明白っす。
◇コメント
『違うそうじゃない』
『はぐらかした?』
『さすが勇者様、炎上を防ぐ上で最適解を引いている』
◇
「今回は、魔王城跡地近くの魔力吹き溜まりダンジョンに挑戦するぞ。ここは、魔王幹部クラスがいくらでも湧くんだ」
鈴木のアニキが今回挑戦するダンジョンを説明すると、配信のコメントが荒れ始めた。
◇コメント
『ここは別名、死のダンジョン。毎年数百人が行方不明となる』
『おいおい。コイツら、初配信で死ぬ気かよ』
『言うて魔王を討伐した連中だから案外簡単に突破したりして……』
私は撮影用のスマホを自撮り棒に固定して、ダンジョンに入る前の準備を整えた。
「とりあえず、対魔法、対物理の防御魔法かけるっすね!」
◇コメント
『聖女様何気に無詠唱じゃん』
『魔法って詠唱しなきゃ制御がまともに出来ないんだっけ?』
『さすがは魔王を倒した連中だ……』
『たった15年の歴史である魔法。まだよくわからない代物をよく詠唱無しでやるよな』
やっとダンジョン配信らしくなってきたっすね! このままの勢いで頑張るっすよ!
そう心の中で意気込んでいると、鈴木のアニキが徐にそんなことを言い出した。
「その前に、アイテム揃えていく。念には念を入れないと」
「まっ、それもそうっすね。私たち、準備不足で敗走したことが三回はあったっすし」
◇コメント
『ダンジョンに潜らないんかい!』
『準備してる間に対魔法、対物理の防御魔法の効果切れるぞ? いいのかそれで?』
『けど説得力が違うや』
こうして私たちは、近場のアイテムショップへ立ち寄るのだった。
◇
お店に入ると、早速店員さんが鈴木のアニキに話しかけてくる。
「いらっしゃいませお客様! ゆっくり見て行ってくださいね!」
「お客様じゃなくて鈴木なんですけど!」
「はっ、はぁ……」
店員さんが鈴木のアニキを好奇な目で見つめている。
「ごめんなさい。これは鈴木のアニキの発作みたいなものなんすよ」
◇コメント
『何この勇者』
『勇者様にいい噂を聞かなかったけど、こういうことだったのか』
『幻滅しました。聖女様のファンになります』
アワワワワ……鈴木のアニキの評判がうなぎ下がりっす!? 本当は頼もしい人なのに。
これはダンジョンで視聴者さんをわからせるしかないっすね!