僕の名前はサイード。勇者パーティの元メンバーだ。日本にいた魔王を討伐したあと、僕は故郷のアラブ世界を放浪していた。
シシカバブを食べながら、故郷のダンジョンを調査したり、中東の人々の助けをしていた。
そんなある日、勇者から一通のURLが届いた。『配信始めたから見にきてくれ』という文章を添えて。
特に拒否する理由もないのでURLを開いてみることにした。
「どれどれ……」
画面には土下座している勇者と、銀髪を靡かせながら勇者の行動に困惑している聖女の姿が映った。
『シャンテル。俺のことお兄様と呼んでくれないか?』
『やっ! 何度言われてもアニキって呼ぶっす!』
『おーん!』
配信を流した瞬間、変わってない顔ぶれと、懐かしい会話が聞こえてきた。それと同時に、ある記憶が蘇ってくる。
◇十年前の回想
「勇者ごっこしようぜ! 二人は勇者の付き人な」
「誰ガ付キ人ダ!」
「いつか勇者になった時の練習だよ!」
鈴木は、日本に引っ越してきたばかりで、日本語も片言でしか喋ることが出来なかった僕と遊んでくれた人だった。
「私も遊びますわ~! 私は聖女役ですわ!』
シャンテルも日本の中では僕と同じ外国人で親近感を持てた。後に仲間として魔王と激闘を繰り広げることになるとはこの時は思ってなかったが。
「シャンテルってば、勇者の仲間なのに『ですわ!』とか『ますわ~』とかやめない?」
「べ、別ニ、変ジャナクナイ?」
「へんなの! 漫画に出てくるお嬢様すぎる!」
「オ、オジョウサマ……?」
「もっとカッコいい話し方がある!」
「お兄様、いったいどんな話し方ですの?」
シャンテルが?マークを浮かべながら興味津々といった感じに話しかけていた。
「えっとね。まず、勇者様のこと『お兄様』なんて言わないんだ。『アニキ』って呼ぶの!」
「アニキ……」
「あと語尾に『っす!』をつけるの!」
「っす……ですか?」
「ナニソレ、シャンテルニハ合ッテナイ喋リ方ダト僕ハ思ウゲド」
「でもこの話し方の方が絶対カッコいいもん!」
「こんな感じっす……?」
「そう、こんな感じ!」
「これでお話しすれば大丈夫っすか?」
「うん! バッチシ! そうだ、今後もその話し方で過ごしてよ! そのうち、俺が本当に勇者になって、サイードが魔法使いになって、シャンテルは聖女になって、みんなで魔王を討伐するってなったらその方がいいっしょ!」
「みんなと……分かったっすアニキ! 私はずーーっとこの話し方でいるっす!」
◇
後に鈴木はこう語っている。『俺はバカだったからお兄様の価値を、その偉大さを、希少価値を知らなかったんだ。だから、もう一度だけでいいから、シャンテルにお兄様って呼んでほしい!』本人はあの日のことをずっと後悔しているようだった。
今も画面越しでも分かるぐらい鈴木は落ち込んでいる。僕としては、同じ年の女の子にお兄様と呼んでほしいと迫るのはあんまりよろしくないと思うが。