「ダンジョンなのに雪が降ってるっす。摩訶不思議っすね……」
ダンジョンは雪ゾーンに入っていた。困ったことが一つある。私達は防寒具を用意してない。そして私は寒いのが苦手だ。
「寒いのかシャンテル? ここにサイードが居たら魔法でなんとかしてくれるだろうけど、居ないし。仕方ない撤退するか」
「そ、そうっすね……配信の視聴者数も数千人集まってるし、お金も十分稼げたっすよね。潮時っすね」
鈴木のアニキは魔法使えないし、私も炎魔法は専門外。これ以上進んだら帰れなくなると判断した私達は、来た道を戻っていくのだった。
◇コメント
『おいまだ二階層目だぞ!? 帰るのか!?』
『いやまあ、勇者のステゴロでギリギリ持ってるパーティだし、回復役は居ても役に立たないし』
『↑回復術者軽視論者だ』
『まあ実際、勇者パーティは優秀な魔法使いが抜けた今、火力不足が否めないよ』
◇
「オデの眠りを妨げるやつは誰ダモ~!」
鈴木のアニキじゃない声が聞こえてきたので、咄嗟に振り返ってみると、5メートル以上はあるであろう雪男が佇んでいた。
大まかだけど私は相手の魔力を測れる魔法が使える。それで計測してみたが……
「魔王最高幹部相当の魔力を保有してるっす、あの雪男! ヤバいっすよ! サイードのアニキが居ない今、勝てないかもしれないっす!」
「火力の大半はサイードに任せてたからなぁ。よし、撤退だ!」
「えっ、ちょ!?」
瞬間、鈴木のアニキは私をお姫様抱っこしたあと、雪男から背を向けて逃げ出した。
◇コメント
『てぇてぇ~』
『てぇてぇ~』
『危機的状況なのにみんな心配してないの草生える』
『信じられるか? コイツらくっついてないんだぜ?』
◇
雪男が猛烈なスピードで追いかけてくる。雪男が振りかぶって殴ってきた。私は防御魔法を展開して攻撃を阻止。その隙に、鈴木のアニキが走る。しかし、目の前は行き止まりになっていた。
「お、降ろしてほしいっす……」
久々の地面に降り立ったあと、片手に持っていたスマホ棒を手放し、本気で雪男と対峙することにした。
「鈴木のアニキ、配信を見やすくするためにスマホの固定頼むっす! 私はその間時間を稼ぐっすから!」
「了解!」
◇コメント
『命大事にって場面じゃない今?』
『配信者魂スゲー』
『おいなんか勇者様雪玉作ってるぞ!?』
◇
対物理と通常の防御魔法。さらに一定期間回復する魔法を自身にかけた。
雪男が攻勢を強めていく。次第に防御魔法がひび割れていき、そして粉々に破られてしまった。
雪男の攻撃が、防御魔法が無い状態でくる。私は思わず目をつぶってしまった。
「ダモ~!?」
攻撃が来なかった。私はゆっくりと瞼を開いてみると、鈴木のアニキが雪玉を雪男へ投げつけていた。
雪男は不敵に笑っている。すると雪男が雪玉を鈴木のアニキに投げつけてきた。
「うわっ、冷たっ!」
ずるいと思った私も雪男に雪玉を投げてみた。雪男から笑みが溢れている。
このあと雪合戦になった。
◇コメント
『さっきまで殺伐としてたのに、みんな楽しそうだ』
『ええっ……』
『結果的には勇者様のファインプレーだけど、どうして雪玉投げつけようと思ったのか』
◇
少しの間遊び続けた雪男は満足そうにその場から去っていった。