地下二階も一本道だった。
「こうも変わり映えがないと、配信者的には嫌っすね~」
幸いにも出現してくるモンスターは牛鬼以外は大したことなかったので、そのままガンガン進むことができた。
◇コメント
『このダンジョン、罠とかもないんだ』
『↑作られたばかりのダンジョンは、罠が少ない。覚えておきな』
『もっとヒリヒリとした戦いを見せてほしい』
『手練れでもゴブリンやオーク相手に苦戦するものなんだ。瞬殺するこいつらがおかしいんだ』
すっかり気を緩んでた頃だった。敵感知魔法が起動したのは。
私はすぐに臨戦体制へ移行する。
「むっ、気をつけてくださいっす鈴木のアニキ! あっちからそこそこデカい魔力の持ち主がやってくるっす!」
そうアニキに忠告した。するとアニキが徐に石を手に取り、とある提案を私に投げかけてきた。
「暗くてよく分からないし、投石してみてもいいか?」
『なんでっすか!? モンスターを刺激するだけっすよ!? やめてくださいっす!』と、言い終わる前に鈴木のアニキは投石していた。
綺麗なフォームだった。能見さんを彷彿とさせるフォームでストレートを投げていた。
◇コメント
『鈴木様、今すぐ私の推し球団を救ってください!』
『150kmは確実に出てる……』
『勇者やる前、野球やってた?』
『聖女様の話し聞けよ勇者よ』
モンスターの反撃が来ると思い、私は身構えた。しかしモンスターは現れず、代わりに女性みたいな男性の声が聞こえてくる。
「危ないわね。投石モンスターかしら?」
さぁぁぁぁっと、血の気が引いていく感覚を私は覚えた。
声と雰囲気的に、相手に当たってなかったから良かったものの、もし当たってたら大惨事である。
それと同時にアニキに対する不満もここで爆発した。
「アニキ、正座するっす」
「えっ?」
「正座!」
「あっはい!」
私はアニキを正座させたあと、小一時間説教した。『アニキは人の話を聞かない』やら『いつも突拍子もないことするのがアニキの悪癖』とか言っただろうか。
いつのまにかアニキは土下座していた。
◇コメント
『聖女様怒ると怖い……般若みたいな顔してるし……』
『ほぼ確でコイツら結婚するだろうけど、勇者は聖女様に尻を敷かれるタイプだな』
『ダンジョン配信でガチ説教されてる人初めて見ました』
「振り回されるこっちの身にもなってくださいっす! これに懲りたら、『人の話はちゃんと聞くこと』っすね! 以上っす!」
「すみませんでした!」
アニキも反省してそうだし、ここまでにしておこう。サイードのアニキにこの光景を見られてたら『甘い』と一蹴されるだろうけど。
まったく、惚れた相手には怒る時もついつい甘くなってしまう。どうしたものか。
「さあ、気を取り直してダンジョン攻略進めるっすよ鈴木のアニキ!」
鈴木のアニキは申し訳なさそうに立ち上がった。
「貴方達、公開特殊プレイ終わったかしら?」
すると、聞き覚えがある声が聞こえてきた。それもあわやアニキの投石に当たりそうになった人の……
「アニキ! 私も謝るっすから『石を投げてごめんなさい』って謝るっすよ!」
「すみませんでした!」
こうして私達は土下座をしたのだった。