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第13話 謝るっすよ

 地下二階も一本道だった。


「こうも変わり映えがないと、配信者的には嫌っすね~」


 幸いにも出現してくるモンスターは牛鬼以外は大したことなかったので、そのままガンガン進むことができた。



◇コメント


『このダンジョン、罠とかもないんだ』


『↑作られたばかりのダンジョンは、罠が少ない。覚えておきな』


『もっとヒリヒリとした戦いを見せてほしい』


『手練れでもゴブリンやオーク相手に苦戦するものなんだ。瞬殺するこいつらがおかしいんだ』



 すっかり気を緩んでた頃だった。敵感知魔法が起動したのは。


 私はすぐに臨戦体制へ移行する。


「むっ、気をつけてくださいっす鈴木のアニキ! あっちからそこそこデカい魔力の持ち主がやってくるっす!」


 そうアニキに忠告した。するとアニキが徐に石を手に取り、とある提案を私に投げかけてきた。


「暗くてよく分からないし、投石してみてもいいか?」


『なんでっすか!? モンスターを刺激するだけっすよ!? やめてくださいっす!』と、言い終わる前に鈴木のアニキは投石していた。


 綺麗なフォームだった。能見さんを彷彿とさせるフォームでストレートを投げていた。



◇コメント


『鈴木様、今すぐ私の推し球団を救ってください!』


『150kmは確実に出てる……』


『勇者やる前、野球やってた?』


『聖女様の話し聞けよ勇者よ』



 モンスターの反撃が来ると思い、私は身構えた。しかしモンスターは現れず、代わりに女性みたいな男性の声が聞こえてくる。


「危ないわね。投石モンスターかしら?」


 さぁぁぁぁっと、血の気が引いていく感覚を私は覚えた。


 声と雰囲気的に、相手に当たってなかったから良かったものの、もし当たってたら大惨事である。


 それと同時にアニキに対する不満もここで爆発した。


「アニキ、正座するっす」


「えっ?」


「正座!」


「あっはい!」


 私はアニキを正座させたあと、小一時間説教した。『アニキは人の話を聞かない』やら『いつも突拍子もないことするのがアニキの悪癖』とか言っただろうか。


 いつのまにかアニキは土下座していた。



◇コメント


『聖女様怒ると怖い……般若みたいな顔してるし……』


『ほぼ確でコイツら結婚するだろうけど、勇者は聖女様に尻を敷かれるタイプだな』


『ダンジョン配信でガチ説教されてる人初めて見ました』



「振り回されるこっちの身にもなってくださいっす! これに懲りたら、『人の話はちゃんと聞くこと』っすね! 以上っす!」


「すみませんでした!」


 アニキも反省してそうだし、ここまでにしておこう。サイードのアニキにこの光景を見られてたら『甘い』と一蹴されるだろうけど。


 まったく、惚れた相手には怒る時もついつい甘くなってしまう。どうしたものか。


「さあ、気を取り直してダンジョン攻略進めるっすよ鈴木のアニキ!」


 鈴木のアニキは申し訳なさそうに立ち上がった。


「貴方達、公開特殊プレイ終わったかしら?」


 すると、聞き覚えがある声が聞こえてきた。それもあわやアニキの投石に当たりそうになった人の……


「アニキ! 私も謝るっすから『石を投げてごめんなさい』って謝るっすよ!」


「すみませんでした!」


 こうして私達は土下座をしたのだった。

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