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第18話 ご協力

遥はため息をついた。

「深沢さんの周りには、体型を維持してる女性はいないの?まさか私がいくら食べても太らないと思ってる?」


彼女は体脂肪率を常に18%に保ち、毎日のカロリー摂取もきっちり管理している。


陸はそんなこと、これまで気にしたこともなかった。興味のない人や物事には、もともとほとんど注意を払わないのだ。


「自分に厳しくしてるだけ。」

遥はうなずき、ふと気になって聞いた。

「深沢さんはいつ運動してるの?私が起きると、いつももういないけど。」


「君が寝てる間だよ。朝ランニングしてる。」

陸はナプキンを手に取りながら答えた。

彼女が「やっぱり」といった表情を浮かべると、彼の口元がわずかにほころんだ。


食事を終え、遥がタクシーを呼ぼうとしたとき、陸が車のキーを手に取った。

「送るよ。」


彼女は時間を確認し、彼の後ろに目をやった。

「今日は二人だけだよ。ちょうど通り道だし。」

彼はドアを開けて言った。三原ホテルは中心のビジネス街にあって、確かに彼の通勤ルート上だ。しかも、彼女はスーツケースも持っている。


「ありがとう。」


車内は終始無言だった。


ホテルが近づいたころ、陸がようやく口を開いた。

「仕事を変えること、考えたことある?」


遥は率直に答えた。

「考えたことはあるけど、今すぐ辞めなきゃいけないほどじゃない。ずっと頑張ってきたし、私のキャリアならチャンスも大きい。今はまだ諦めたくない。」


どこの職場も結局は同じようなものだ。場所を変えても、厄介な同僚がいなくなるわけじゃない。本質的には変わらない。


陸はそれ以上何も言わず、ホテル近くの角でスピードを落とした。

「この辺でいい?」


ちょうどいい距離だし、コーヒーも買える。

遥はスーツケースを持ち、彼に軽く会釈した。

「また連絡するね。」


彼はほのかに笑みを浮かべながら、彼女がカフェへ向かう姿を見送った。朝のカフェは近くのオフィスワーカーで賑わっている。


遥が入ると、ざわついた店内が一瞬静まり返った。彼女は目を引く存在で、この辺りではちょっとした有名人だ。


普段佐藤双葉と親しくしている同僚たちが彼女と目が合い、気まずそうに口元を引きつらせた。


遥は少し意外に思った。


自分のデスクに座ると、小林雪が勢いよく飛び込んできた。


「昨日何があったの?LINEも既読スルーだし!気になって死にそうだったんだから!」小林雪は声をひそめる。


遥はアイスアメリカーノを渡した。

「これ、どうぞ。」


「コーヒーでごまかそうって?」

小林雪は眉を上げる。


「いらないなら返して。」

遥が手を引こうとすると、小林雪はすかさず奪い取り、大きく一口飲んだ。そしてスーツケースに目を留めた。

「なんでスーツケース持ってるの?どこか行ってた?」


「ちょっとトラブルがあってね。」

遥はようやくLINEを開いた。


小林雪からは三十件以上のメッセージ。ほとんどがどうでもいいネタの転送で……遥はそういう通知はすでにミュートにしていた。


「もう見なくていいから!」

小林雪はさらに身を寄せ、声をひそめて言った。

「あのクズ男の件、すごいことになってるよ!地元のトレンドにも入ってる!」


遥はうなずいた。もちろん、無関係じゃない。


「それだけ?」


「それだけじゃないよ!」

小林雪は周囲を警戒しながら声を落とした。

「彼のお父さんが贈収賄の疑いで、昇進した人たち全員が調査されてるんだよ。信じられる?田中さんと佐藤双葉、昨日連れていかれたって!」


田中が裕久家と親しいのは有名な話だ。でも佐藤双葉まで……?


「見たかったなあ。」

小林雪は目を輝かせて言った。

「佐藤双葉、連れて行かれるとき真っ青だったよ!夜、祝杯でもどう?」


「いいよ。」

遥は答えた。

「楽々が近くに新しいお店を見つけたって、評判もいいみたい。」


吉田玲奈は幼いころからの親友で、小林雪とは三原ホテルで出会って仲良くなった。三人はよく一緒に食事や飲みに行っている。


旅好きで食べ歩きVLOGのフォロワーが100万人を超える吉田楽々のおすすめなら、間違いない。


裕久の父の事件はどんどん拡大し、裕久自身にも学歴詐称やマネーロンダリングの疑惑が浮上。三原グループは大きなダメージを受けていた。


役員は社内調査を急きょ開始。すぐに、裕久と公然と交際し、営業部に所属する遥も調査対象となった。


最上階に呼び出されたとき、彼女は驚かなかった。


席を立った瞬間、オフィスの噂話が蛇のように広がった。


「昨日休み取ったのは、財産隠しを手伝ってたんじゃない?彼、彼女にだいぶ貢いでたらしいし。」


「こういう女の末路なんて見えてるわよね。」


小林雪は机を叩いて立ち上がった。

「そんなに口が悪いなら、ゴミ捨て場から出てきたのかしら?」


その場は静まり返り、みんなは席に戻ってスマホを必死にいじり始めた。

小林雪は怒りをこらえながら、LINEのグループチャットで噂好きたちを一斉にやり込め、同時にエレベーターの方を心配そうに見つめていた。



最上階——

遥は電波の届かない個室オフィスに案内された。

机の向こうには男女三人。


「どうぞ座ってください。」

中央の男性が声をかけた。


遥は落ち着いて椅子に座った。三人の視線が鋭く、室内はまるで取り調べ室のような緊張感に包まれる。


「なぜ呼ばれたか分かりますか?」

女性が先に口を開いた。


遥は無邪気そうに答えた。

「さあ、分かりません。」


「もうごまかす必要はありませんよ。」

男性が身を乗り出し、無言の圧力をかけてきた。

「裕久と三か月交際していますが、彼の私的な行動について把握していますか?グループの利益を損なう行為に関与しましたか?正直に答えてください。」


遥はしっかりと彼の視線を受け止め、一歩も引かなかった。


彼女はスマホを取り出し、画面をアンロックし、指先で操作すると「カチ」と音を立てて、スマホの画面を中央に伏せて置いた。録音アプリが起動しているのがはっきり分かる。


三人の顔色が一変した。


遥はゆっくり背もたれに身を預け、冷静に口を開いた。

「そちらにも録音機材があるのでしょうから、公平のため、こちらも記録させていただきます。それに、そちらは司法機関ではありませんから、私に強制的な協力を求める権限はありません。」

一拍置いて、三人の緊張した表情を見渡した。

「でも、私が知っていることをできる限り話します。」


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