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第9話 危篤!

知弘は杏子の腰を強く掴み、そのままソファに押し倒した。膝で彼女の足を強引に開かせる。


「知弘、何をするの……」

「逆らわないほうがいいぞ。」


彼は杏子を乱暴にソファに投げつけ、その上に覆いかぶさった。


杏子の両手は頭の上でしっかりと押さえつけられ、知弘の体にさらに密着せざるを得ない体勢になる。


「見てみろよ。」知弘は言う。「お前の体は正直だな、杏子。欲しいなら素直に言えばいい。俺はお前の夫なんだぞ。毎日毎晩、俺の腕の中で眠りたいと思ってたんじゃないのか?」


「やめて……苦しい……」


杏子は下腹部に鋭い痛みを感じていた。さっき痩せた男に蹴られた一撃が、あまりにも強烈だったのだ。


彼女には抵抗する余裕もなかったが、知弘は全く容赦しなかった。


知弘は主導権を握り、杏子の顎を掴み、口を塞いで、声すらも聞きたくない様子だった。


実のところ、知弘が触れたことがある女性は杏子だけだった。


仁香とのあの晩、彼は酔いつぶれて翌日の記憶もなかった。


彼は仁香を本当に愛していた。大切な夜を新婚初夜まで取っておきたかったのに、酒に酔ったせいで自分の誓いを破ってしまった。それが悔しくて、それ以来酒も飲まず、仁香にも触れなかった。


そんな中、仁香から妊娠を告げられた。


どれほど嬉しかったことか。最愛の女性との子ども。しかし、その翌日にはすべてが杏子によって奪われた。


「仁香と子どもは死んだ。だからお前とその子どもも、同じく死ぬべきなんだ!」


「杏子、これが罰だ!」


激しい痛みが杏子を襲い、喉元に血の気がこみ上げる。彼女は必死に耐えた。


すべてが終わった後、知弘は冷ややかに服の襟を整えた。「満足したか?」


「――っ」


返事の代わりに、杏子の口から血が溢れ、知弘のシャツを赤く染めた。


「痛い、苦しい……」冷や汗を流しながら杏子は弱々しく呟く。「知弘、私、本当に死ぬのかな……」


でも、死ぬわけにはいかなかった。直樹を助けなければならないのだから。


血がソファの上に広がっていく。その様子を見ながら、杏子は目を閉じて動かなくなった。


「おい、杏子!」


その瞬間、知弘の心に激しい不安が押し寄せた。今まで何度も彼女の死を望んできたはずなのに、もし本当に死んでしまったら――


知弘は杏子を抱きかかえ、外へと駆け出した。「救急車!早く救急車を呼べ!」


腕の中の杏子はあまりにも軽い。こんなにも痩せてしまって……


思い返せば、彼女が自分のもとに嫁いできた日は、まるで花のように明るく美しかった。


手術室の前――


「病人は危篤状態ですが、こちらにサインをお願いします。」医師が言う。「彼女はトあなたはどんな関係ですか?」


「彼女は……」知弘は一瞬答えに詰まり、「妻です」と答えた。


その時、彼は初めて気づいた。この四年間、杏子はずっと幸田家の妻として、懸命に役目を果たしてきたのだ。


幸田家の妻という肩書きを失えば、彼女には何も残らない……


「あなた、夫としてどういうつもりですか?あと数分遅れていたら、彼女の命はなかったですよ!」


「彼女はどうなったんですか?」


「出血です。手術が必要ですが、これから先、妊娠はほぼ不可能でしょう。覚悟してください。」


そう言うと、医師は手術室へ向かった。


「死なせるわけにはいかない。」知弘は歯を食いしばり、一語一語区切るように言った。「俺が許さない限り、杏子は死なせない!」


「全力を尽くします……」


知弘は拳をきつく握りしめた。「彼女の命は俺のものだ。死ぬなら俺の手の中で、手術台の上じゃない!」


救え。どんな手を使っても、必ず助けろ!


知弘は突然、恐怖に襲われた。彼女を失うことへの恐怖に。


その時「幸田さん。」白いワンピース姿の愛理が、彼の前に現れた。「ここにいらっしゃったんですね。ずっと探していました。」


「仁香……」


彼女は微笑むながら言い直した。「私は愛理です。」


知弘はごくりと喉を鳴らし、小林に目を向けた。「……俺と直樹の親子鑑定をしろ。」


「かしこまりました。」


その言葉を聞いた愛理は、うつむきながら目を細め、冷ややかな笑みを浮かべた。


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