知弘は杏子の腰を強く掴み、そのままソファに押し倒した。膝で彼女の足を強引に開かせる。
「知弘、何をするの……」
「逆らわないほうがいいぞ。」
彼は杏子を乱暴にソファに投げつけ、その上に覆いかぶさった。
杏子の両手は頭の上でしっかりと押さえつけられ、知弘の体にさらに密着せざるを得ない体勢になる。
「見てみろよ。」知弘は言う。「お前の体は正直だな、杏子。欲しいなら素直に言えばいい。俺はお前の夫なんだぞ。毎日毎晩、俺の腕の中で眠りたいと思ってたんじゃないのか?」
「やめて……苦しい……」
杏子は下腹部に鋭い痛みを感じていた。さっき痩せた男に蹴られた一撃が、あまりにも強烈だったのだ。
彼女には抵抗する余裕もなかったが、知弘は全く容赦しなかった。
知弘は主導権を握り、杏子の顎を掴み、口を塞いで、声すらも聞きたくない様子だった。
実のところ、知弘が触れたことがある女性は杏子だけだった。
仁香とのあの晩、彼は酔いつぶれて翌日の記憶もなかった。
彼は仁香を本当に愛していた。大切な夜を新婚初夜まで取っておきたかったのに、酒に酔ったせいで自分の誓いを破ってしまった。それが悔しくて、それ以来酒も飲まず、仁香にも触れなかった。
そんな中、仁香から妊娠を告げられた。
どれほど嬉しかったことか。最愛の女性との子ども。しかし、その翌日にはすべてが杏子によって奪われた。
「仁香と子どもは死んだ。だからお前とその子どもも、同じく死ぬべきなんだ!」
「杏子、これが罰だ!」
激しい痛みが杏子を襲い、喉元に血の気がこみ上げる。彼女は必死に耐えた。
すべてが終わった後、知弘は冷ややかに服の襟を整えた。「満足したか?」
「――っ」
返事の代わりに、杏子の口から血が溢れ、知弘のシャツを赤く染めた。
「痛い、苦しい……」冷や汗を流しながら杏子は弱々しく呟く。「知弘、私、本当に死ぬのかな……」
でも、死ぬわけにはいかなかった。直樹を助けなければならないのだから。
血がソファの上に広がっていく。その様子を見ながら、杏子は目を閉じて動かなくなった。
「おい、杏子!」
その瞬間、知弘の心に激しい不安が押し寄せた。今まで何度も彼女の死を望んできたはずなのに、もし本当に死んでしまったら――
知弘は杏子を抱きかかえ、外へと駆け出した。「救急車!早く救急車を呼べ!」
腕の中の杏子はあまりにも軽い。こんなにも痩せてしまって……
思い返せば、彼女が自分のもとに嫁いできた日は、まるで花のように明るく美しかった。
手術室の前――
「病人は危篤状態ですが、こちらにサインをお願いします。」医師が言う。「彼女はトあなたはどんな関係ですか?」
「彼女は……」知弘は一瞬答えに詰まり、「妻です」と答えた。
その時、彼は初めて気づいた。この四年間、杏子はずっと幸田家の妻として、懸命に役目を果たしてきたのだ。
幸田家の妻という肩書きを失えば、彼女には何も残らない……
「あなた、夫としてどういうつもりですか?あと数分遅れていたら、彼女の命はなかったですよ!」
「彼女はどうなったんですか?」
「出血です。手術が必要ですが、これから先、妊娠はほぼ不可能でしょう。覚悟してください。」
そう言うと、医師は手術室へ向かった。
「死なせるわけにはいかない。」知弘は歯を食いしばり、一語一語区切るように言った。「俺が許さない限り、杏子は死なせない!」
「全力を尽くします……」
知弘は拳をきつく握りしめた。「彼女の命は俺のものだ。死ぬなら俺の手の中で、手術台の上じゃない!」
救え。どんな手を使っても、必ず助けろ!
知弘は突然、恐怖に襲われた。彼女を失うことへの恐怖に。
その時「幸田さん。」白いワンピース姿の愛理が、彼の前に現れた。「ここにいらっしゃったんですね。ずっと探していました。」
「仁香……」
彼女は微笑むながら言い直した。「私は愛理です。」
知弘はごくりと喉を鳴らし、小林に目を向けた。「……俺と直樹の親子鑑定をしろ。」
「かしこまりました。」
その言葉を聞いた愛理は、うつむきながら目を細め、冷ややかな笑みを浮かべた。