一真の目は鋭く、その言葉一つ一つが氷のように冷たく響いた。
「未来、たとえ地球の隅々までひっくり返しても、必ずあなたを見つけ出す!」
「何年経っても、まだ諦められないのか?」
知弘は眉間を揉みながら、疲れた様子で言った。その表情に隠せない焦りが滲んでいる。
「おばあさまにも連絡はなかったのか?」
「おばあさまにもそれとなく聞いてみたが、何の手掛かりもなかった。」
一真の声は低く、冷たく響いた。
「未来はまるで海の底に沈んだ石のように、波紋一つ残していない。」
「もし見つけたとして、どうするつもりだ?」
知弘の声に、鋭い警告が込められた。
「おばあさまはあの子を命のように大切にしている。少しでも傷つけてみろ、どうなるか分かってるだろう?」
未来がここまで強気でいられるのは、幸田家の誰よりも強い祖母の庇護があるからだ。
昔、祖母が神社に行ったとき、突如として赤ん坊の大きな泣き声が響いてきた。
その声を辿ってみると、布に包まれた女の子が必死に泣いていた。
その子の首には翡翠のペンダントがかかっていた。祖母は彼女を引き取り、「未来」と名付けて、自らの膝元で育てた。
未来は幸田家の本家で、知弘や一真とともに育った。
祖母の溺愛こそが、彼女の最大の盾だった。両親も、財産を脅かす存在でない彼女の存在を黙認していた。
一真が数年にわたり軍に送られていた時期も、未来は祖母の世話を理由に一緒に行った。
「手出しできなくても、目の届くところに置いておくべきだ。」
一真はすでに我慢の限界に達し、口調を切り替えて言った。
「杏子はどこだ?」
知弘はそれ以上何も言わず、立ち上がり、外へ向かう。
「ついて来い。」
地下室へ続く通路は薄暗く、鍵を回す音が静寂の中で響き渡る。その音は冷たく、耳障りだった。
ジメジメとした冷気が体にまとわりつき、隅には黒い影がうずくまり、闇と一体化しているようだった。
「あそこだ。」
知弘は顎で指し示し、無関心そうな声で言う。
「まだ息はあるはずだ。」
そのわずかな音に、影がかすかに震えたようだったが、それ以上の反応はなかった。
一真は大股で歩み寄り、しゃがみ込む。
「杏子?」
彼は手を伸ばして彼女の鼻先に触れた。冷たさと静けさに、思わず身を引いた。
「……息をしていないみたいだ!」
「そんなはずはない。」
知弘は眉をひそめ、信じられないといった様子で、杏子の体を軽く蹴った。
「杏子、死んだふりはやめて、起きろ!」
返事はない。
さらに力を込めて何度か蹴り、冷たく命じるように言う。
「俺が死ねと言うまで、死ぬんじゃない!」
地面に横たわる杏子の体はぐったりとし、微動だにしない。
ふと、一真の目が杏子の足元に落ちている歪んだ物体をとらえた。
彼はそれを拾い上げた。それは壊れたハイヒールのかかとだった。革の部分はすっかり剥がれ、金属の細いヒールだけがむき出しになっている。
「これはどういうことだ?」
一真は声を荒げ、そのヒールを知弘に突きつけた。
知弘はちらりとそれに目をやり、眉をほんの少しだけ動かした。
「ネズミでもかじったんだろう。」
そう言って、特に気にする様子もなく、杏子の肩を乱暴に引き起こした。
「杏子!」
強引に体を仰向けにされ、杏子の体はぐったりと床に横たわる。
ぼんやりとした意識の中で、杏子は重いまぶたをわずかに開け、ぼやけた視界で見上げた男の顔を捉えた。
最後に彼女の目が止まったのは、きつく結ばれた冷たい唇だった。
薄くて冷たい唇――この表現が、彼にはぴったりだった。
どうしようもない哀しみが胸を満たし、わずかに残った意識を呑み込んでいく。
意識が闇に沈む直前、杏子の中に一つの思いが鮮明に浮かぶ――
この顔を忘れてはいけない、絶対に。
たとえ黄泉の国を渡り、どんなに記憶を失っても、来世では絶対に彼を避けて生きるために。
かつて「妖精さん」と呼ばれ、彼の目に溺れるほどの優しさがあった。ほんのひとときの温もりが、杏子の心に深く刻まれ、幾度も冷たい夜を乗り越える支えとなった。
だが、その瞳の中にあった自分だけの光は、もう完全に消えてしまった。
ただ、永遠に凍った氷原が残るだけ。
「知弘……」
唇がかすかに動き、かろうじて名前の一音だけを絞り出すと、ついに目を閉じた。もう、力は残っていなかった。
杏子の手は、支えを失い、床へと落ちかけた。
だが、その瞬間、大きな手が素早く伸びてきて、彼女の手をしっかりと握りしめた。
その冷たく硬い感触が、知弘の神経を鋭く刺激した。
忘れかけていた記憶が、突然頭をよぎる――
「私は三十年分の寿命を使い果たしたの。もうすぐ死ぬわ……」
あの時、杏子は静かにそう言ったのだった。