ルネはわざと怖い顔をしてフィーネに詰め寄ってくると、今も包帯でグルグル巻きのフィーネの足を指差す。
包帯を巻きすぎて靴が入らなくて困っていると、イヴが泣きながら可愛いサンダルをプレゼントしてくれたのでとても助かっている。
「自分で試してみないと効果は分からないなと思って……」
「そりゃそうかもしれないけれど、だからってここまでしなくても良かったよね!?」
それはその通りである。歩く度に激痛が走る事は誰にも言っていないが、冷炎花のおかげで日に日に良くなっている実感はあるので後悔はしていない。
「足が治るまでフィーネはお休み! 今日はもう帰りなさい!」
「そんな! 手伝えます!」
「だめ。そんな事したら私がお城の人たちから文句言われるんだからね!」
「え、ど、どうして?」
ルネはむしろ私に医療を教えてくれる偉大な人だ。それなのにどうして責められるというのだ!
フィーネの顔がよほど困惑していたのだろう。ルネはフィーネの鼻先に指先を押し付けて笑った。
「それぐらい、あなたは大切にされているの。自覚して」
「……うん」
フィーネは戸惑いながらも頷いた。
それは最初からずっと感じていた。お城の人たちはフィーネにとても良くしてくれる。それはいつも顔を合わせるイブやリコだけではない。お城の人たち全員がフィーネに優しく接してくれるのだ。
その思いを無下にする事は出来ないし、気付かない振りも出来ない。
納得したフィーネの頭をルネが優しく撫でながら笑う。
「分かればよろしい。でも冷炎花に関しては本当にお手柄よ。ありがとう、フィーネ。良ければ他の古代薬草についても教えて」
「はい! それじゃあお休みを頂いている間にあの本の翻訳をしてまとめますね!」
休んでいてもやる事が出来て嬉しいフィーネを見てルネは苦笑いしつつも頷いてくれた。
ルネに言われて城まで戻る道中、色んな人がフィーネに声をかけてくる。
「あれ? フィーネ! 今日はあの体よりも大きな薬箱は持ってないのかい?」
そう言って笑いながら声をかけてきたのは、鼻風邪を引いてしまって鼻水だけが止まらないと泣きついてきた生地屋の店主ミレだ。
「あ、ミレさん、こんにちは。それが私のポカでちょっと足を怪我してしまってお休みを頂いたんです」
「あれまぁ、そりゃ可哀想に——ってあんた! そりゃどう見てもちょっとって怪我じゃないじゃないか!」
フィーネのサンダルに視線を移したミレは青ざめて駆け寄ってくる。
「ちょっと座りな! こんな包帯じゃ駄目だよ! これ! これ巻くからね!」
そう言ってミレはカバンの中から包帯よりもずっと分厚い清潔な布を取り出してフィーネの両足の包帯を取って悲鳴をあげている。
その声に近くに居た人たちが寄ってきて、あっという間にフィーネの周りには人だかりが出来た。
「一体全体なにをしたらこんな大怪我するの」
「こりゃ酷い……焼け鉢にでも足突っ込んだのか?」
「ああ、魔力さえあればすぐに治せるのに! そうだ! 魔王様にお願いしてみる!?」
口々にそんな事を言う皆に、フィーネは事情を説明してこれは実験中なのだと伝えると、途端に皆がギョッとしたような顔をした。
「そ、そういうのを実験したい時は頑丈な魔族に任せなさい!」
「そうだぞ! 人間のお前たちがこんな事したら治らないかもしれんだろうが!」
「ご、ごめんなさい」
皆に叱られて縮こまるフィーネに、小さな少女が果物を持ってきてくれる。
「これね、お見舞い。ママが持っていきなさいって。フィーネお姉ちゃんいつもありがと」