「あったわ! これが冷炎花の新芽なの」
「枯レソウ」
「ええ。この花は地中で繁殖をしてこうやって芽吹くんだけど、灰が積もり過ぎると地上に出た新芽はすぐに枯れてしまうそうなの。でもね、水を与えると——」
フィーネが小さな新芽に水をかけた途端、新芽はまるでその時を待っていたかのように物凄いスピードで成長を始めたではないか。
「なるほど。冷炎花など絶滅したと思っていたが、そういうカラクリがあったのか。確かにこの場所は昔は適度に雨が降っていたと言われているな」
「ええ。いつ頃からか見ることが無くなったと言われていた冷炎花をこのような形で見ることが出来るとは思ってもいませんでした」
思わず感心するゼルヴァとスタンレーを他所にフィーネはあっという間にそこら辺一帯に咲き乱れた花を集め、その後、大量に持ってきていた竹で作った筒に水を汲んできたかと思うと、それを徐ろに逆さにして地面に差し込み始めた。
「フィーネ、何シテル? 意味不明! 意味不明!」
「こうしておくとね、少しずつ水が土に染み込んでいくの。植物の根は時間をかけて水を求めて土の中を移動して行くわ。でも今の成長スピードでは湖に辿り着く前にきっと枯れてしまう。そうしたら冷炎花は本当に絶滅してしまうじゃない。だからそのお手伝いよ」
そう言ってフィーネは湖までの間に等間隔に竹筒を差し込んでいく。そして全てを差し込み終えると、汗を拭いながら言った。
「これでまた冷炎花の熱取りが普及するかもしれない。それにあの湖の近くに群生してくれれば、採取する時に火傷もしないでしょう?」
フィーネの靴は既に灰の熱で底が破れている。それに気付いてゼルヴァはため息を落とした。
「また足が焦げているじゃないか」
「王には申し訳ないですが、正直言うとその試みは有り難いです。冷炎花は優秀な解熱剤だったと言いますから」
またゼルヴァが治療をするのか。そう思ったその時、フィーネから思いがけない言葉が聞こえてくる。
「それにほら見て、リコ。冷炎花がこの酷い火傷にどこまで効くか実験も出来るのよ!」
「フィーネ! 冷ヤス! スグニ冷ヤス! イブ呼ブ!」
ようやくフィーネの足の火傷に気付いたのか、リコが大袈裟に騒ぎ出した。どうやらフィーネはついでに自分の火傷を使って薬効を試すつもりらしい。
「……なんて自己犠牲に溢れた方なのでしょう……」
「馬鹿の極みだ」
そう思うのに不思議と憎めない。最初の頃のような嫌悪感もいつの間にか消えている。
それはすべき事を見つけたフィーネの笑顔にほんの少しの陰りや打算が見えないからだろう。
リコに叱られながらも火傷した足を引きずりながら歩き出したフィーネを見て思った。
「やはりこの女は根っからの聖女気質なのだな。スタンレー、作戦を変更する」
「ええ。その方がよろしいようです。ではもう彼女を監視するのはお止めになりますか?」
その言葉にゼルヴァは一瞬頷きかけてすぐに首を振った。放っておいたらいつか絶対に命を落とすに違いないだろうと思ったのだ。
「いや、違う意味で監視は続ける」
「畏まりました」
ゼルヴァの心を読んだかのように、珍しくスタンレーが微笑む。その笑顔の裏の意図が読み切れないまま、ゼルヴァはその後もフィーネの薬草採取に付き合っていた。
※
絶滅品種と言われていた冷炎花の湿布は、フィーネが思っていたよりもずっと効果があった。フィーネの火傷にはもちろんの事、ゼノの関節の炎症にもとても良く効いたのだ。
「フィーネ凄いわ! でも、その足についてはお説教よ」