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第14話 資格があるのか


時崎グループの雰囲気が最近、まるで嵐の前の静けさのように重苦しい。

特に役員フロアでは、誰もが足音を忍ばせ、息をひそめていた。

宮崎高英は、時崎徹と最も頻繁に顔を合わせる立場にあり、そのストレスは並大抵のものではなかった。数日に一度は、叱責されていたのだ。


今日もまた、宮崎はスケジュールの報告を終えた直後、時崎徹から鋭い視線を浴びせられる。


「凌雲のプロジェクトは?」


徹の声は冷たかった。


「もちろん急いでます!」と、宮崎は反射的に答える。


その瞬間、スケジュール表が勢いよく足元に投げつけられた。


「そんなに急いでるのに、区役所に行く時間はあるんだな?お前の段取りはどうなってるんだ!」


徹の怒りが露わになる。


宮崎は冷や汗をかきながら、「じゃあ……今すぐキャンセルしますか?」と、しどろもどろに返した。


キャンセル?徹の中で苛立ちがさらに募る。

ここ数日、琴子は折れず、離婚を要求した。


宮崎は、何か言いたげに口を開く。

「実は、キャンセルしなくても……今日、早瀬聡が――」


その時、ドアが勢いよく開き、琴子が息を切らせて飛び込んできた。

「徹さん、話がある!」


徹の表情は一瞬で険しくなったものの、眉間のしわはどこかほころんでいる。


「どうやって入ってきた?」


「宮崎さんのアシスタントの方と下で会って……」

琴子は、自分が無遠慮に押し入ったことに気づき、少し気まずそうにうつむいた。

今日は頼みごとがあって来たのだ。徹を怒らせてしまえば、助けてもらえない。


ふと、足元のスケジュール表に目をやると、最初の行に「午前九時、妻と区役所で離婚」と書かれているのが目に入った。

自分が離婚のために来たことを思い出し、不安がよぎる。

これで早瀬聡の件を頼めるのだろうか。


「琴子、今さら謝っても遅いと思わないか?」

徹は椅子にもたれ、ネクタイをゆるめながら、冷ややかな笑みを浮かべた。


「お願い……聡が事故を起こしたの。周防先生弁護士を紹介してもらえない?」

琴子は真っ直ぐに切り出した。


「彼が運転中に人をはねてしまったけど、調べたら、被害者は示談金目当ての詐欺師らしいの。周防先生弁護士なら勝てる可能性が高いって……お願い、力を貸してもらえない?」


人が亡くなったのは大事だ。

琴子は本来、早瀬清葉に遺族のケアを任せるつもりだったが、どう考えても弁護が必要だ。もし相手が本当に当たり屋なら、聡に濡れ衣を着せるわけにはいかない。


聡の話では、道端でじっと立っていた女性を、通り過ぎようとしたところ突然飛び出してきて、ブレーキをかける暇もなかったという。


徹の視線はさらに冷たくなり、口元の笑みも消えた。


「もう離婚するっていうのに、どうしてお前の弟を助けなきゃいけない?」


一人は必死、もう一人は冷徹そのもの。


琴子は唇を噛みしめ、血の味がするまで我慢した末に、泣きそうな声で言った。


「離婚するなら、財産は一切いらない!お願い、周防先生弁護士を紹介してくれない?」


「はっ……」


徹は呆れたように笑い、怒りを爆発させた。

勢いよく立ち上がり、デスクを回って琴子の前に立つ。

その大きな体で琴子を見下ろしながら言い放った。


「お前に時崎家の財産を分ける資格があると思ってるのか?結婚して二年、時崎家に何の貢献をした?」


「徹様……」と宮崎が口を挟もうとしたが、すぐに琴子に遮られる。


「この二年、私なりに一生懸命やってきたつもりよ。それだって、貢献にならないの?」


琴子は涙目で、真剣に徹を見つめた。


「……」と宮崎が再び言いかけた時、


徹は鋭い視線で宮崎を黙らせた。


「そんなの、誰でもできることだろ。家事なんて、お前が勝手にやってただけじゃないか。」


「じゃあ、夜のことは?」

琴子の声は思わず大きくなった。自分でも、なぜここまで食い下がるのかわからなかった。ただ、どうしても聡を助けたい――その一心だった。


「言っておくが、それは夫婦の義務だ。」


徹のこめかみに青筋が浮かび、琴子の表情から何か未練を探そうとしたが、何も見つからない。ただ、聡のためだけにここに来ているのだ。


――この女が離婚したいなら、なぜ自分が助けなきゃならない?


琴子は絶望し、徹の前では全く勝ち目がないことを痛感する。

これからどうしたらいい?離婚をやめる?それとも、結婚を公にしていなかったことを盾に脅す?

徹が聡を助けてくれるだろうか……。



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