目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第7話 異能力(アビリティ)マニュアルは必要ですか?

「ヒヤマ様」


「アイ、どうしました?」


「以前、ご依頼があった異能力アビリティのマニュアルを作成しました。チェックをお願い致します」


「もう出来ましたか。アイは仕事が早くて助かります」


「ありがとうございます。しかし、あのおバカな双子のためにマニュアルを作成する必要がありますか?」


「アイ、ワタシはあの双子のためだけに制作を依頼したわけではありません」


「どういう意味でしょうか?」


「今、クイーン×ビーを利用して異能力者サーヴァントになった者は正直、バカばかり。しかし、今後そんな人ばかりではなくなる。クイーン×ビーの割引に興味がなければ、契約しない可能性もある。異能力者になることが得だと思わせる情報が必要。そう思っただけです」


「そこまで先を考えられているのですね、流石ヒヤマ様」


「老人を褒めても何も出ないですよ」


「では、早速チェックをお願いします」


「うん」


 ワタシはアイが作成した資料データに目を通す。


○異能力とは?


 人の欲望を具現化した力。

 例:誰かにモテたい・相手の力を奪いたい


○異能力者とは?


 異能力を宿した能力者

 異能力をイメージしたタロットカードを相互補完クラウドから受け取り、契約を交わした瞬間になれる。


「出だしはわかりやすいですね」


「ありがとうございます」


「強いて言えば、相互補完=オーナーヒヤマと書いた方がわかりやすいかなと」


「ヒヤマ様のお名前を書くのですか? 伏せて置いた方がよろしいじゃないですか」


「そうですが、バレても支障はありません」


「かしこまりました」


 アイに修正箇所を伝えると、ワタシは続きを読み始める。


○異能力のリスク


 どの異能力にも禁止事項タブーがある。

 例:他人に異能力者とバレると死ぬ。


「このリスクの記載は不要です。これでは契約をされない可能性があります」


「かしこまりました」


「アイは優しいのですね。禁止事項なんて知らせなくていいのですよ」


「いえ、禁止事項を知らないと勝手に自爆される可能性があります。せっかく産み出したのなら、少しは生き残った方がよいと思いまして」


 あなたも残酷な考えをお持ちのようだ。

 それでいいのです。


「失礼します」


 突然、アイのスマホが鳴り出した。


「はい、アイです。了解」


「どうしましたか?」


「受付からです。ツバキさんの隔離病棟ブラック×ボックスの発動持続限界のようです」


 確かに、彼の隔離病棟を1週間ずっと使い続けていましたね。今週は予約が多くて、プレイルームを閉める暇がありませんでした。


「そうですね。彼には無理をさせすぎました。1週間程の有給を差し上げてください。その間、風俗営業をストップします」


「かしこまりました。ご予約のお客様の対応はいかがなさいますか?」


「店舗メンテナンスのためと謝罪メールを送ってください。次回来店は無料でご利用出来るという文も追加してください」


「かしこまりました。ウタにそのように対応させます」


「お願いします」


 別にツバキの異能力に頼らずに営業することは出来る。

 しかし、そんなリスクを犯したことによってマリアさんの存在がバレる可能性がある。ここは彼の能力に頼るしかない。


 ツバキの隔離病棟は亜空間を産み出す異能力。クイーン×ビーは、ラブホテルとしての届を出しているけど、風俗店営業の許可を得ていない。申請自体が面倒なのではない。風俗営業の届けを出した際に従業員であるマリアさんのことを調べられるとやっかいだ。彼女が見た目年齢20代で、”実年齢70代”という違和感に気づかれでもしたら面倒だ。

 彼女を隠すためには、”ただのラブホテル”という表の顔が必要。

 そこで彼の隔離病棟の出番だ。


 風俗目的の客とキャストをプレイルームという名前の隔離病棟で作った亜空間に案内する。そうすれば、警察にバレることはない。


 ただ、この隔離病棟はかなりの精神力を使う。彼には労働基準違反になるほどの仕事をさせている。

 しかし、彼はここしか居場所がない。不労者であった彼を拾って正解だった。


 彼を見ていると、昔のワタシを思い出します。


「アイ、マニュアル作成は後で大丈夫なので、風俗営業ストップ対応優先してください」


「かしこまりました」


 アイ。キミはとても優秀だ。あの時、リスクを犯してまで手に入れた甲斐がありました。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?