高橋千雪はその場に凍りついた。全身の血液が一瞬で凍りついたかのようだった――高橋慎一と美羽優が抱き合っている。その光景は焼けた鉄板のように、容赦なく彼女の目に焼き付いた。
これが、同じ枕を共にしたこの男に対して初めて湧き上がった憎しみだった。千雪の指は白くなるほどカーテンを握りしめ、生地が裂けそうなほどだった。
今すぐこの障子を引き剥がし、周囲の記者にこの男女の醜態を曝け出してやりたい――衝動が込み上げてきた。
「ママ、おばあちゃんの遺骨、僕が抱えるよ!」
高橋翔太の声で、千雪は我に返る。振り向くと、息子はもう彼女のそばに駆け寄り、今にもカーテンの向こうへ潜り込もうとしていた。
十六年前の記憶が突然蘇る――父とあの女の姿、それは十年以上も彼女を苦しめた悪夢だった。翔太はまだ五歳。絶対にこんな穢れたものは見せられない。
「翔太、まだ小さいから無理よ。」千雪は震える声で息子の肩を押さえた。「もっと大きくなったら、その時はあなたが法事を仕切ってね。」
「やだよママ、もう力持ちだもん!」翔太はまだもがいていた。退院したばかりで千雪の力は戻っておらず、翔太を止めきれない。その手がカーテンに触れそうになった瞬間、奥の部屋から「ドンッ」という鈍い音が響いた。
人ごみの中で、高橋恵が突然叫んだ。「中に誰かいるの?」
彼女は翔太を引っ張り、奥の部屋へ突進した。記者たちも騒ぎに気づき、警備員の制止を破って一斉に室内へなだれ込んだ。
千雪は戸口に立ちながら、室内を見回した――あの恥知らずな男女の姿は消えていた。しかし、床には遺灰が散乱していた。
「母さんの遺骨が!」千雪は狂ったように人をかき分け、床にひざまずき、震える手で遺骨を抱き寄せた。喉の奥から、張り裂けるような絶叫が漏れた。「ああ――!」
記者たちのフラッシュが狂ったように焚かれ、生配信まで始まっていた。コメントが一瞬で画面を埋める。
{なんてこと!誰だ、告別式の会場でこんな不謹慎なことを?}
{高橋社長は?愛妻家って設定じゃなかったの?今どこ?}
{死者への最大の冒涜だ!黒幕を絶対に突き止めろ!}
高橋雅が慌てて駆けつけ、すぐに指示を出す。「新しい骨壷を持ってきて!余計な人間は全員追い出せ!」
魂が抜けたような千雪は恵に支えられ、彼女はわざとらしく慰める。
「義姉さん、誰がやったかは分からないけど、兄さんが絶対に許さないから。」
そして、急に話題を変える。「ところで、お兄さんはどこ?」
千雪は答えず、視線を室内の隅へ向けた――そこには裏庭へ通じる裏口があったはずだ。予想通り、裏庭に回ると、高橋慎一のロールスロイスが細い路地の奥に停まっているのが見えた。
近づいてみると、車の窓が少し開いていて、中の声がはっきり聞こえてきた。
「よくも彼女の母親の告別式会場でこんなことをしでかしたな!」慎一の声は怒りを抑えていた。
「慎一さんに会いたくてたまらなかったの……」美羽優の声は甘ったるく、媚びるようでもあり、懇願するようでもあった。
「ここで騒ぎを起こすなんて、殺してやる!」
千雪は吐き気を催し、踵を返そうとしたその時、背後から雑踏の足音が聞こえてきた――恵が記者と翔太を連れて追いかけてきたのだ。
「義姉さん、骨壷を壊した犯人を見つけたの?」恵が大声で問いかける。その目は車をじっと見つめ、「これ、兄さんの車じゃない?まさか犯人が中に?」
「なんて非道なんだ!死者の遺骨に手を出すなんて!」記者たちも同調し、カメラを一斉にドアへ向け、生配信の視聴者は大騒ぎになっている。
「義姉さん、早く開けて!」恵は翔太の肩を叩いて煽る。「翔太も、おばあちゃんの遺骨を壊した悪い人を捕まえたいよね?」
翔太は面白がって大きく頷く。「ママ、早く開けて!」
「開けろ!開けろ!」
周囲も一斉に騒ぎ立て、怒りが渦巻いていた。
千雪はこの光景を前にして、こめかみがズキズキと脈打つのを感じた――ふと、自分の子供時代を思い出した。父が浮気した後、廊下で同級生たちに囲まれて「パパに捨てられた」「あの子は誰にもいらない子」と嘲笑された。
あの言葉は毒針のようで、十年以上経っても痛みは消えなかった。
翔太にだけは、絶対にこんな思いはさせない。
「開けないで。」千雪は前に出ようとする人々を遮り、かすれた声で言った。
しかし恵は突然、千雪の手を押さえ、手伝うふりをして耳元でそっと囁く――二人にだけ聞こえる声で。
「分かってるよ、兄さんと美羽優が中でいちゃついてるって。」
「こんなに大勢見てるのに、もう隠しきれないよ。」
「義姉さん、昔のこと覚えてる?あんたが私と林原光に離婚を勧めて、林原家は破産、光は刑務所、美咲はパパを失った。私は名誉を傷つけられ、家から追い出されそうになった……今度は、あんたの番だ。」
「全世界に、あんたの夫の不倫がバレる。息子もそれを目の当たりにする――あの時のあんたのように。」
「プライドを何より大事にしてたよね?じゃあ、どうやって守るのか見せてよ。」
千雪は勢いよく振り返ると、恵の得意げな笑みが目に飛び込んできた。
これが、すべて彼女の仕組んだ罠だったのだ。
千雪が止める間もなく、恵は全力で車のドアを引き開けた――
フラッシュが一斉に焚かれ、車内の光景はカメラの前に完全に晒された。