美羽優はこの言葉を聞いて、極度のショックを受けた。

「やめて！」

「お願い、こんなことしないで！」

「私は美紀の母親よ！」

「子宮を取らないで、他のことなら何でもするから！　私はまだあなたのためにたくさん子供を産んで、高橋家の血筋を継がせるのよ。」彼女は涙を流し、必死に抵抗したが、屈強な男性看護師たちには到底敵わなかった。

医師が白衣のポケットから注射器を取り出し、透明な液体が針先から噴き出し、美羽優の頸動脈にどんどん近づいていく。

美羽優は全身の力を振り絞り、高橋慎一の足にしがみついた。「お、お願い……」

だが高橋慎一は彼女を蹴り飛ばした。

絶望の淵で、真っ赤な目から涙があふれ出した。

看護師に乱暴に引き起こされ、医師が注射器をその首に刺そうとする。

「きゃあ——！」

悲鳴が別荘全体に響き渡り、美羽優は目を見開いたまま倒れた。

医師は、針が美羽優に触れていないのを見て、「高橋社長、彼女は恐怖で気絶しました」と報告した。

高橋慎一は何かを思い出し、眉をひそめた。「病院へ運べ。」

病院にて、全身検査の後、美羽優は目を覚ました。

「高橋社長、患者は驚愕による失神で、特に問題ありません」と医師は説明する。

だが高橋慎一はまだ不安げだ。「心臓も検査してくれ。」

医師は指示通り、もう一度美羽優の心音を聞き、高橋慎一に頷いた。「問題ありません、美羽さまのお身体はとても健康です。」

医師の言葉を聞いても、高橋慎一の美羽優を見る目は暗く、何を考えているのか誰にも分からなかった。

恐怖の中、美羽優は徐々に落ち着きを取り戻し、高橋慎一が自分の体調を気遣っているのを知り、心にわずかな温もりが流れた。

彼はまだ自分を気にしてくれている。

さっき怒ったのは、きっと高橋千雪が枕元で何か囁いたせいだ。

彼はまだ名目上、高橋千雪の夫であり、千雪に説明しなければならないから、彼女を脅かしたのだろう。

彼女に子供を産ませないなんて、たとえ彼が望んでも、高橋雅は許さないはずだ。

こういろいろと思考を整理した末、美羽優は思い切って彼の体にしがみついた。

「慎一、私が悪かった、誓うよ、もうお姉ちゃんの邪魔はしない。どう罰してもいいよ。」

甘えた声で、指先は彼の胸元を柔らかくなぞる。

高橋慎一は無表情で美羽優を見つめ、冷たい声で言った。「どんな罰でも？　何をさせてもいいのか？」

美羽優はまた彼の興味を引いたと思い、くすくすと笑った。「もちろんよ。」

彼女は彼の大きな手を自分の胸に当て、「でもさっきあなたにすごく怖がらされて、魂が抜けそうだったの。ちょっと慰めてよ。」

高橋慎一は動かず、ただ一言、「入れ。」

そのとき、ドアが開き、小野大翔が立っていた。

美羽優は気まずく手を離し、ベッドに座り直して、高橋慎一を不思議そうに見つめた。

ボディーガードが一枚の結婚届をベッドに置いた。

「君たちは今、正式な夫婦だ。」高橋慎一は一歩下がり、ソファに腰かけ、冷たい視線で小野大翔を見据えた。

「慎一さん、俺は一生彼女に手を出しません。」小野大翔はとりあえず忠誠を誓い、自分をここに呼ばれた高橋慎一の考えを全く読めなかった。

「母の言うことは気にしないでください。こんなこと、母には関係ありません。」

美羽優は唇を噛み、小野大翔を嫌そうに一瞥し、潤んだ瞳で高橋慎一をじっと見つめた。

「彼に触れさせない。私の心も体も、あなただけのものよ。」

高橋慎一の気配は重く、黒い瞳に危険な光が宿り、互いに嫌悪し合う二人を包み込む。

「お前ら、今夜はここで初夜を過ごせ。」

「え？」美羽優は自分の耳を疑った。

小野大翔の手がぎゅっと握りしめられた。高橋慎一と一緒に育った彼には、その一言一句が絶対だとよく分かっていた。

「彼女を抱け。今日から彼女はお前の妻だ。」高橋慎一は淡々と繰り返す。

「いや——！」

美羽優はベッドから転げ落ち、高橋慎一の足元にしがみついた。「嫌よ！」

「慎一、なぜそんなことするの？私はあなたのものなのに、どうして小野大翔と関係を持って、あなたを裏切れるの！」

高橋慎一は眉をひそめ、すでにかなり不機嫌だった。

小野大翔はそれを見て、慌てて美羽優を引き起こし、ベッドに投げ戻して、無理やり彼女の服を脱がせようとした。

美羽優は必死で襟を押さえ、彼の頬を平手打ちした。「あなたなんかに触らせない！」

小野大翔は動きを止め、美羽優に向けた目には欲望はなく、怒りが見えた。

「明後日には、君は大翔の正式な妻になる。何がいけない？」高橋慎一は淡々とした顔だ。

「嫌、私は小野大翔じゃなくて、あなたがいい。あなただけ。」美羽優は心底怯えた。もし本当に小野大翔と関係を持ったら、高橋慎一は二度と自分に触れてくれない。

「子宮を取るほうがいいなら、その望みを叶えてやる。」高橋慎一の目に憐れみはなかった。

その言葉に、美羽優の瞳から恐怖の涙があふれ、屈辱に震える声で、「……分かりました。」

小野大翔は美羽優を抱き寄せた。

ほどなくして、ベッドが揺れ始めた。

美羽優は絶望の涙を流し、高橋慎一がなぜここまで冷酷なのか、自分を彼の友達に渡すのか理解できなかった。

それだけではない。彼はその場に座り、無関心に見ているだけで、まるで知らない人の芝居を眺めているようだった。

彼は本当に一度も自分を大事に思わなかったのか？

いや、そんなはずはない。

思い返せば、五年前、家が貧しくて体操を続けられず、この大都会に来てネット配信者になろうとした時、佐藤晴に出会い、彼女の紹介で高橋慎一と知り合った。

高橋慎一は、何も持たない自分を名門大学生にさせ、高級車と別荘、華やかな服、美味しい食事を与え、まるでどかのご令嬢のように大切にしてくれた。

この数年、彼から多くを与えられ、両親の家も間接的に助けてくれた。

自分が陽の当たらない愛人であり、彼のそばでスポットライトを浴びるのは姉の高橋千雪で、自分ではないことをよく分かっていた。

だが、美紀を産んでからは違った。

彼は美紀を溺愛し、それに伴って自分にも優しくなった。

彼に連れられて公の場に出て、彼の友人から「奥さん」と呼ばれることが、彼女の虚栄心を大きく膨らませた。

彼の隣にいることを欲しがるようになった。

思い出に浸っているうちに、美羽優の体は突然車に轢かれたかのように痛みで痺れた。

そのとき、高橋慎一が立ち上がるのが見えた。

美羽優は、まるでかつて自分を貧乏から救い出した彼が再び戻り、泥沼から救い出してくれる光を見た気がした。

彼に叫ぼうとしたが、口から出たのはみっともない喘ぎ声だった。

彼が小野大翔の携帯を持ち上げ、セックス中の二人の写真を撮った。まるで目の前のことが自分とは無関係であるかのように。

美羽優は狂ったように叫び、病棟全体にその声が響いた。

父は牢獄、母も牢獄、自分は好きでもない男に蹂躙され、結局一体何を得たのか！

本気で後悔した！

いや、後悔なんかしないわ！

自分はまもなく小野家の奥様になる、美紀は小野家のお嬢様、小野大翔もいる！

だがなぜだろう、絶望の涙は止めどなく流れた。

高橋慎一は何も聞こえないかのように、その写真を小野大翔のSNSに投稿した──「俺と嫁」

こんな毒蛇のような女はきちんと処理し、妄想も退路も与えないようにしなければ。

あっという間に「いいね」が殺到し、下品なコメントも多かった。

【本当にやったのか！慎一さんにバレて切られないといいな！】

【慎一さんの許可なしに大翔がそんな度胸あるか？】

【おお、おめでとう。】

【なんと、大翔は男前だな！】

佐藤晴は小野大翔のSNSを見て、全身震えるほど怒りに駆られた。

高橋慎一は千雪を喜ばせるために、美羽優をゴミのように小野大翔に押し付けた。

佐藤晴は彼を激しく愛すると同時に、深く憎んでいる。

彼は高橋千雪を愛していながら、美羽優とも関係を持った。

なのに、なぜ自分の方を一度も見てくれなかったのか。

もしあの時、プライドを捨てて彼の愛人になっていれば…自分は決して美羽優のように惨めにはならなかったはず！

自分は佐藤家のお嬢様で、千雪よりもずっと気品があり、きっと千雪を早くに追い越していただろう！

やはり彼女は諦めきれなかった！

佐藤晴は写真を高橋雅に転送した。

「おばさん、どうやら慎一と美羽優は完全に別れたみたいです。

慎一は他の女性も受け入れてくれません。どうしましょう？」

30分後、高橋慎一は高橋雅からの電話で本家に戻った。

前回の口論以来、千雪が次々と事件に巻き込まれてから親子の間に溝ができ、まともに話すことはなかった。

「井戸淑蘭は私の大切な友人よ。亡くなる前に千雪を私に託した。どうして心配しないでいられるの？」高橋雅は香炉の灰をかき混ぜ、白檀の香りがリビングに漂っていた。

彼女は真摯に語りかけた。「あなたもよく考えて。この数年、私が彼女に冷たくしたことがある？　今回手術で入院したのに、私は見舞いも許されなかった。もう母親と絶縁するつもりなの？」

「母さん、彼女はもう刺激に耐えられないんだ。」

「慎一、母さんはどんなことも、あなたと千雪のためにやってるのよ。」高橋雅は深くため息をついた。「私が間違っていたんなら、直すわ。もう二度と他の女のことは言わない。」

高橋雅の目に涙が浮かんでいるのを見て、高橋慎一は少しだけ心が揺れた。知らず知らずのうちに香の匂いを吸い込み、心臓に触れ、全身が熱くなり、目が赤く、体が制御できずに震え始めた。

この感覚は骨の髄まで馴染んでいた。

高橋慎一は突然高橋雅を睨みつけ、香炉をはたき落とし、目を赤くして怒鳴った。「これが千雪への愛情の示し方か！」

高橋雅は悲しみを収め、目に無感情な光を宿した。「慎一、こうさせたのはあなたよ、もう一度この手段を使わせたのは！」

このとき、薄着の佐藤晴が書斎から出てきて、高橋慎一の首に腕を絡め、柔らかく熱い体を彼に密着させ、甘い声で誘惑した。「慎一……」

高橋慎一の全身の血管が浮き、熱く滾る血が体を焼くようで、苦しみながら佐藤晴を突き飛ばし、ふらふらとドアへ向かった。

玄関では、ボディーガードがガスマスクをつけて整然と立ちふさがった。

「どけ！」高橋慎一は怒鳴る。

だがボディーガードたちは微動だにしなかった。

「昔はこうして美羽優を受け入れたんだろう、今夜は晴を受け入れなさい！晴は美羽優の何千倍、何万倍もいい女よ。」高橋雅は佐藤晴を連れて慎一の前に立った。「彼女ならあなたを満足させてくれる。」

高橋雅はボディーガードの間を通り抜け、冷たく言い放った。「私は今から千雪のそばに行くわ、あなたも心配しないように。」

「もし今夜従わなければ、全てのことを千雪に話すから。」

ボディーガードたちは手を取り合い、鉄壁となって慎一と晴を囲み、どんどん密着させていく。

薬の効果が骨の髄まで染みわたり、高橋慎一の目は血走り、渦巻く欲望が彼を飲み込みそうだった。彼は手を佐藤晴の肩に落とし、彼女を抱き寄せた。

彼の怒号が天を突き破るほど響いた。「どけ——！」