「ぶっこわれちった」
薄暗い部屋の中で、小さな女の子がひとり呟く。
部屋の壁一面に取り付けられたモニターには3次審査の会場が映っている。
バラバラになったアンドロイドと倒れている少女たち。そしてかろうじて立っていた唯一の少女――右腕だけの奇妙なI.De.Aを身に着けた女の子。
千倉ヒカルはバラバラになったアンドロイドを見てぐらっとよろめき、そのまま床に倒れた。
それを見て調整者志望の少女が慌ててヒカルへと駆け寄る。
そんな状況をモニター越しの俯瞰で眺めながら、小さな女の子はにやっと、愉しそうに笑う。
同時に女の子の斜め後ろへアナスターシャの姿が投影された。
『システムの再起動が完了しました。デルフィニウムのネットワークへの復帰もできています』
アナスターシャからの報告に女の子は「んー」と適当に返事をして、手元にあるキーボードをカタカタと打ち始める。
「映像は当然残ってるんだよね?」
『記録はアップロード済みです。いつでも確認できますよ』
「うん、おっけー」
『風間様への報告は問題なしとしても?』
「もっちろん。あのアンドロイドは最初っから暴走させるつもりだったし」
『かしこまりました』
アナスターシャが頭を下げる。そのまま姿を消し、部屋には女の子だけになった。
「さてと」
グッと座っている椅子から身を乗り出して女の子はモニターへ顔を近づける。
目的はヒカルのI.De.Aの情報だ。モニターに映っている丸いペンダント――I.De.Aのチェストコアだろう。画面をズームしていく。
「暴走は予定通りだけど、あれはみたことないI.De.Aだにゃーん……」
ぐーっと片目だけやたら大きく開き、両手でズームアップする。
そのポーズのまま椅子ごと反転し、モニターの中からチェストコアだけが切り抜く。
さらに映像をズームして、両手で包み込むように丸を描くと、チェストコアだけが立体化する。
「ふーん……」
部屋の中央に浮かぶチェストコアを椅子に座ったまま眺め――眉をひそめた。
「んー……『
おそらくこのI.De.Aの名前のことだろう。右腕だけの奇妙なI.De.Aの名前を読み上げる。
ぐるっと回転してまたモニターを凝視する。そこには千倉ヒカルが立っている。ボロボロではあったが右目だけが金色に光っていて眩しいくらいだ。
まだアイドルになっていない平凡で地味な顔立ちの少女。ヒカルを見上げ、女の子はにぃっと口角を吊り上げた。