新東興都市のやや北側に位置するスタジオビル3階の控え室には、撮影の仕事を終えた2人のアイドルがいた。ヒカル達の先輩であるi─Conの1期生だ。
メンバーの四ノ宮湖鐘は端正な顔で自身のスマートデバイスとリンクさせた仮想キーボードを叩く。ひとり作業を進めつつ誰に喋りかけるわけでもなく、唐突に口を開いた。
「それで、新人はもう決まったの? アナスターシャ?」
画面を見たまま湖鐘がAIアシスタントの名前を呼ぶと、彼女の細長い箱型スマートデバイスからスーツを着た女性のホログラムが現れる。
突然の登場だがもうひとりのメンバーは特に驚くことはない。
『ただいま風間様による最終審査が終わりました。候補となっていた9人全員合格です』
「……9人全員、ね」
アナスターシャからの返事を聞き、湖鐘はフッと鼻で笑う。
「私達のときとは全然違うから気に入らない?」
湖鐘の含みのある言い方に反応したのは隣の席に座っているメンバーの白金真咲だ。
茶髪よりの黒髪はゆったりとウェーブしていて、肩の辺りまで伸びている。アーモンド型の綺麗な目に、くっきりと鼻筋が通っていて全体的に整った顔立ちだということが一目で分かる。真っ白な肌は照明要らずで、頬の薄ピンク色のチークがほんのりとその存在を主張している。
「気に入らないわけじゃないよ。それに、選ばれた9人は普通じゃなかったらしいし」
「そりゃ……合格したんだから普通じゃないでしょ」
真咲はクールな表情で反論する。しかし湖鐘は肩を竦め再び鼻で笑った。
「審査のために用意したアンドロイドが暴走したらしいよ」
初めての情報に真咲はピクッと、整った細い眉毛を動かした。
「暴走したって、あれは咲良が作ったものでしょう?」
「そう、審査は11のグループに分けられてて、毎回暴走したらしいよ」
「……毎回? それって暴走させたんじゃなくて?」
湖鐘の話が信じられないといった調子で真咲は顔を歪ませる。
それに対して湖鐘は無言で肩を竦めた。
「そうだろうね。で、いくつかのグループはその暴走アンドロイドを倒したらしい」
「……倒したの? アレを?」
真咲が冷静な口調で訊ねる。今回の審査を行う上で真咲はあのアンドロイドの戦闘データの収集に協力している。
もちろん他のメンバーもデータ収集に協力している。そこら辺の、それも素人の女の子が倒せる相手とは思えない。
「機能を制限してる状態ならともかく、暴走状態のアレをどうにかでぎるとは思えないけど」
「まぁそれは参加者全員で色々と連携して抑え込んだって聞いてるよ。ただ、最初のグループに関してはひとりで倒したらしい」
「……ひとりで? どうやって?」
湖鐘は寄りかかったまま真咲を見て、トントンと自分の指で胸の中心を叩いた。
そのジェスチャーの意味に、真咲は大きく目を見開く。
「……ほんとうなの? それ」
「さぁね、でも、確かめてみる価値はあるかも」
答えながら湖鐘が愉しそうに笑う。その表情を見て真咲は呆れたように息を吐いた。