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【4-3】BLAST.Sのはじまり

「なに? 結局何なの? 私達はどうすればいいの?」

 パーティ―ホールに開いた大きな穴を眺め、雨野小鹿は誰に言うわけでもなく呟いた。

 合格者発表会に乱入してきた四ノ宮湖鐘。あろうことかI.De.Aを展開して襲い掛かってきた。ヒカルのおかげで助かったがあれがなかったらどうするつもりだったのだろう。

「吹っ飛んだヒカルの様子が気になる」

 皆がどうしようと困っているところに、隣にいた寿崎琴子がそう言って動き出す。

 あろうことか湖鐘が開けた穴を通って外へ出ようとする。

「ちょっ、ちょっと琴子! 待ってよ!」

「アタシも気になる」

 琴子を制止しようとしてさらにまた1人、ヴァザーリ屋久萌が軽やかな足取りで歩き出す。

「萌も! 待ってってば!」

「落ち着いて小鹿。アナスターシャ、いる?」

 声を張り上げる小鹿に、2期生最年長の赤城舞鶴が肩に手を置いてマネージャーを呼び出す。

 すぐに舞鶴のブレスレット型のスマートデバイスからアナスターシャが空中に投影される。

『現在2人は本社ビルにある空中庭園にて交戦中。まずはこの部屋からの脱出を推奨します』

「2人が戦っているところは映像で出せる?」

『ドローンが2人の付近を滞空中です。デバイスを通して映像を出せますよ』

「おねがい」

 舞鶴が答えるとアナスターシャが了承の返事をして、空中へ映像が投影される。

 彼女の言う通り二人は先ほど外から見た空中庭園で対峙しているようだ。

 ひとまず無事な姿を見て、小鹿はホッと息を吐く。

「よかった、大丈夫みたい……ってじゃなくて! アナスターシャ! 琴子と萌に危ないから戻ってくるように言って!」

『既に警告済みですが、2人とも近くで観たいとのことでしたので』

「BLAST.Sじゃないんだよ!?」

「でもこれ、BLAST.Sっぽいです。はじまりってこんな感じでしたよね」

 殆どが戦々恐々としている中、ひとりだけ謎にテンションが高いのは太刀川晴嵐だった。

 目をキラキラと輝かせて、映像に見入っている。

 晴嵐が言う『はじまり』というのは、BLAST.Sの原点となったイベントのことだろう。

 元は要人護衛や危険区域への潜入、医療分野で活用されていたI.De.Aがとあるアイドルグループのボディガードに支給された。

 というのも、当時激化していくアイドル大戦国時代において、極めて悪質なファンだったり、対立する事務所の工作員などが、アイドルへ直接的に危害を加えようとしていたのだ。

 そして、それまでひっそりと行っていた妨害がやがて大っぴらに行われる。

 とある2つのアイドルグループのメンバーが、対バンのライブ中にI.De.Aを身に纏い、直接攻撃を仕掛けてきたのだ。

 I.De.Aに対抗できるのはI.De.Aしかない。相手グループのメンバーもまた、I.De.Aを身に纏い、2人はステージ上で戦った。

 ルールもなにもない、突発的な激しいバトルに観客は困惑しながらも大いに盛り上がった。これがBLAST.Sの『はじまり』である。

 今回も事情は違うが、湖鐘が突発的に仕掛けてきて、ヒカルが応戦している。公式戦ではないルール無用のBLAST.Sが目の前で巻き起こっている。幼いころからBLAST.Sというものが身近に存在していた晴嵐にとって、不謹慎ながらも心躍る展開だった。

『ビルの壁や床が崩落する危険性は低いです。あくまで今の状態での話ですが』

「……それって戦闘が激化したらどうなるの?」

『付近に被害が出ればそれだけ崩落の可能性が上昇します』

「今すぐ2人を呼び戻して! 絶対!」

 思わず叫んでしまう小鹿。映像を見ると今にも2人が激突しようとしている。

 右手だけのI.De.A――小鹿はI.De.Aの調整者デヴァイサー志望としてこれまで様々な種類のI.De.Aを見てきたが、あんなものは見たことがない。

 一部限定的にインパクトフレームを制限するタイプはあるが、それとは似ても似つかない。

 そもそも、右腕にしかインパクトフレームがないというのに、あの『ダイヤモンドライン』と拮抗していることが異常なのだ。

 競技用のI.De.Aが開発されはや数年、システムは年々洗練されていき、i─Conの1期生が使っている専用I.De.Aは第5世代だ。無論最新型でそこらのアイドルがレンタルで使っているI.De.Aではマシンポテンシャルが違い過ぎる。

 しかし、ヒカルのハートブレイカーはそれに喰らいついている。第5世代を超える新型のI.De.Aだとでもいうのか。小鹿はスマートデバイスで映像を解析しながら同期の身を案じた。

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