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【5-4】Verseday第1回戦その2

『お待たせいたしました。i─Conアイコンの7枚目シングル選抜メンバーを決めるためのグループ内BLASTブラスト.SエスVersedayバースデイ』第1回戦です』

 実況役のアナウンサーの声が天井のない競技場に響き渡る。

 ヒカルの目の前には既に対戦相手である琴子が立っている。長方形のステージの中央にI.De.Aイデアを展開してヒカルと対峙していた。

(……あれが第6世代I.De.A『デルフィニウム』)

 琴子がその身に纏うアイドル専用の強化外骨格。東藤咲良が作り出した量産型I.De.A『デルフィニウム』は、3次審査で見た試作型よりもさらに洗練されたフォルムとなっていた。

 全身を覆う半透明の膜、フレキシブルフレームはもちろん。腕や肩、背中や足などの各部に曲線で構成された合金製のインパクトフレームが取りつけられている。

 花びらを想起させる白と青、そして紫が混じった装甲は複雑に重なり合い、背中には花弁型のスラスターが今にも推進剤を吐き出そうとしていた。

(それに比べて私のI.De.Aは……右腕だけ)

 軽く右手をあげて、ヒカルは自分の掌を見下ろす。

 赤と銀色で構成された右腕だけのインパクトフレーム。その特異な形状に集まった観客は物珍し気にヒカルの右腕を見ていた。

『対戦カードはi─Conの2期生、寿崎琴子と千倉ヒカルです。新人アイドルの2人はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか。それでは、まもなくカウントダウンが始まります。ライブ中はみなさまくれぐれも座席から離れないようにしてください』

 アナウンサーの言葉にざわついていた観衆が静まり返っていく。

 会場のライトが弱くなり、周囲を2機のドローンが飛び交う。壁際に設置されたモニターに互いの宣材写真とI.De.Aの耐久値が表示された。

 戦いが始まる。BLAST.S開始を告げるカウントダウンのホログラムが映る。

 開始まで3秒、一時的に歓声がおさまり琴子が戦闘態勢に入る。グッと地面を踏みしめ手持ち武器の2丁のライフルを構えた。

 開始まで2秒、フレキシブルフレームに搭載されたバイザーが戦闘モードへ切り替わり、青みがかかっていた視界がぐるりと回って赤く染まる。

 開始まで1秒、デルフィニウムをターゲットに設定し、ヒカルは右手の掌を向けた。

『ライブスタート!』

 始まりを告げる電子音と沸き上がる歓声――その一瞬の中で先に動いたのは琴子だった。

 両手に持ったライフルを突きつけて引き金を引く。

 ほとんど同時のタイミングで撃たれた対I.De.A用ライフルはガァンッと派手な音をたてながらヒカルへと襲い掛かる。

 いくらフレキシブルフレームで身体を保護しているとはいえ当たったら痛い。ヒカルは姿勢を低くとって前へと踏み込み、銃弾を躱した。

 当然攻撃はこの程度で終わらない。I.De.Aが攻撃を察知し、警告音が響く。

 さらに琴子は推進剤を噴かし、後方へと飛び上がる。ステージに設置された防壁の後ろへと飛び込み、距離を取ろうとした。

(逃がしちゃダメだ)

 前進しながらもヒカルは掌を後方に向ける。フィイィイィンと風を切るような音が鳴り、掌からリパルサー・リアを発射した。

 リパルサー・リア:クロスブースト――掌に収束したエナジーをビームではなく推進剤として放出して高速で移動するハートブレイカーならではのアプローチだ。

「これでっ!」

 弾丸が飛び出すかのごとく前方へと跳躍するヒカル。前へ進んで琴子の攻撃を避け、隠れている壁を越えて後ろへと回り込む。

 跳び込んだ勢いのまま空中で一回転。琴子の後ろに着地して掌を向けた。

 今度こそエナジービームによる攻撃だ。フィイィイィンと風を切るような音をたてて掌のコアが青白く輝く。

 リパルサー・リア。単発式のエナジービームショットは目にも留まらぬ速さで撃ち出された。

「めちゃはやっ」

 抑揚のない口調でコメントする琴子。リパルサー・リアが放たれると同時に大きく上半身を動かす。

 真横への回避運動により、ヒカルが放ったビームショットは琴子の肩口をかすめて外れた。

(躱された。けどっ!)

 攻撃が当たらなかったことに一々反応してはいられない。ヒカルはさらに一歩踏み込んで今一度ビームショットを放つ。

 2発3発、立て続けに撃つ。だがその攻撃は当たらない。

 そして5発目を撃った次の瞬間、先ほどまで防戦一方だった琴子が動き出す。

「今度はこっちの番」

 ガチンッと金属同士がぶつかる音が鳴る。

 わずかな発射後の隙を突かれ、琴子が先ほどまで構えていた2丁のライフルを連結させた。

(なにあれっ!? 聞いてないんだけど!)

 トレーニングのときは見せなかったギミックにヒカルはギョッとする。

「隙あり」

 呟くと同時に放たれる攻撃。対I.De.A用ライフル弾ではなく、ヒカルが先ほど放ったものと同じ高出力のエナジービーム。

 ピンク色のビームはまっすぐにヒカルへと襲い掛かる。

 チェストコアへの直撃コース。ヒカルは咄嗟に右手を握りしめ、手の甲を前へと突き出す。

 ヒカルの脳波にI.De.Aが反応し、前方へとエナジービームを放射する。

 攻撃のためではない。自分の身を守るために防御用のエナジービームフィールドを展開した。

 エナジービームによる『膜』を形成することで、実弾もビームも弾き飛ばす。それがハートブレイカーに搭載されたエナジービームフィールドだ。

 従来のI.De.Aではエナジー効率の問題上、数秒展開するだけで『燃料切れ』を引き起こしてしまうテクノロジーだが、ヒカルのハートブレイカーはそれを実現させる。

 事実、琴子が放ったエナジービームは呆気なくフィールドの干渉によって弾かれてしまった。

「……ヒカル、それずるくない?」

「それは……まぁ、そうかもですけど」

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