「ぜーんぜん話題になってないなぁ……」
琴子とのBLAST.Sの翌日、ヒカルは寮の自室のベッドに寝転がり、スマートデバイスを腹に乗せて空中に映し出された画面を眺めながらダラダラと自堕落な時間を過ごしていた。
トピックスは先日から始まった『Verseday』の話題ばかり。
四ノ宮湖鐘VS飛河美夜、複数人のライターが様々な視点から勝敗の結果を予想するという記事で、2人の最近の対戦成績やI.De.Aの性能と相性の話、最近あった面白エピソードまで載っている。ほぼすべてのSNS媒体でシェアされ、コメントもいいねの数も膨大な数字となっている。ちなみにヒカルと琴子のBLAST.Sは特になく、その日に行われた『Verseday』の対戦結果をまとめて伝えるニュースで少し載っているだけ。コメントはあるがヒカルや琴子に言及しているものは数える程度しかない。
ヒカルも琴子もまだまだ新人なので当然と言えば当然なのだが、それにしたってこれはなんだか悲しい。2期生同士のBLAST.Sなんてみんな眼中にないみたいだ。
「まぁでも、観客も少なかったしなぁ……中継ドローンも2機だけだし……ていうかそもそもステージがさ……」
デジタルディスプレイをにらみながらひとりぶぅぶぅ文句を垂れるヒカル。まだ新人とはいえこの扱いはあまりにも露骨すぎる。
「うーん、みんなも同じ感じかぁ……うーわっ」
ニュースに寄せられたコメントを流し読みしていると、不意に嫌なものを見つけてしまった。
『なんでこの子は変なI.De.A使ってるの?』
『あのI.De.Aなに? しかも強くないか?』
『他の2期生は量産型のI.De.Aを使ってるのにズルくね?』
『BLAST.Sちゃんと見てないけど明らかにI.De.Aの性能勝ちだろ』
心にもないコメントにヒカルはげんなりする。
変とか強いとかはまだいい。ズルいなんて、なぜそんなことを言われなくちゃならないのか。
「しかも性能勝ちって……」
ヒカルの顔に暗い影がさす。ギュッと目を閉じると自身の内側にモヤモヤとした感情が生じる。生温かくて粘り気のある嫌な感情だ。
見ず知らずの人間にやいやい言われるのは慣れてるけどそれでも不愉快ではある。しかもそれがヒカル自身が思っていたことならなおのこと。
『じゃあ勝てるじゃん。戦い方にもよるけどボクのデルフィニウムじゃハートブレイカーには勝てないからねぇ』
BLAST.S開始前に東藤咲良から言われたことを思い出す。
自分の実力なんて関係ない。自分が勝てたのはI.De.Aのおかげ。それを認めたくなくて、だけど、今回の結果は明らかにその通りで、勝ちを素直に喜ぶことができない。
モヤモヤした想いを抱いたまま、ヒカルは現実から逃げるように目を閉じた。