夜が明ける頃、日向美桜は白鳥紗耶香が自分のシルクのパジャマを身にまとって部屋から出てくるのを見つめていた。

彼が女性を泊めるのは、これが初めてだった。

案の定、首筋に無数のキスマークを残した白鳥紗耶香が美桜の前に立ちふさがる。「私があの時、何て言ったか覚えてる？」

当然、忘れるはずもない。

五年前の雨の夜、白鳥紗耶香は取り巻きを引き連れて彼女をトイレの個室に追い詰めた。

冷たい水を何度も頭から浴びせ、彼女がみじめな姿で震える様子を嘲笑いながら写真に収めた。

「日向将平が、あんたみたいなのを好きになるわけないでしょ？」

白鳥紗耶香は爪を美桜の頬に食い込ませた。

「見なよ、私が彼を奪うところを。」

「将平様はプライベートヨットで私の誕生日を祝ってくれるの。あなたには本来、招待する資格なんてないのよ。」白鳥紗耶香は毒々しい笑みを浮かべる。

「でも私は言ったことは必ず守るから。あなたに、彼が私をどれだけ大事にしてくれるか、しっかり見せてあげる。」

日向美桜は顔を上げ、五年前とまったく同じ勝ち誇った表情を浮かべる白鳥紗耶香と目が合った。

白鳥紗耶香の誕生日の夜、隣室からは朝まで絶え間ない笑い声が響き続けた。

日向将平がわざと声を張り上げて言った。「誕生日おめでとう、僕の小さな星。」

――それはかつて、彼が美桜にだけ呼んだ愛称だった。

ヨットは波に揺れ、美桜は冷たいデッキの隅で身を縮めていた。五年前、雪が降る夜のことを思い出す。

あのとき、彼は破産したばかりで、二人はドヤ街の片隅でカップ麺を分け合っていた。

彼は美桜が海を好きだと知っていて、冷たくなった彼女の足を自分の胸に抱いて温め、「お金持ちになったら、ヨットを買って誕生日を祝ってあげる」と約束してくれた。

今、ヨットは手に入った。でも、そこにいるのは自分じゃなかった。

宴会場のシャンデリアは星のように輝いていた。

日向将平は白鳥紗耶香の手を取り、皆の前でケーキを切り、日向家に伝わるピンクダイヤのブローチを彼女の襟元に飾った。

ゲストたちはひそひそと噂する。「日向様はまだ隣にいるのに……」

「聞いた？昔、日向家が倒産したとき、彼女はすぐに周防達也のところに行ったんだって。」

美桜は影の中に身を潜め、拳を強く握りしめた。

五年前、父が警察に連れて行かれるのをこの目で見た時に比べれば、こんなこと――

将平が破産したその日、逮捕された情報屋の父は取調室で叫んでいた。「娘は何も知らないんだ！」

そのとき、将平の宿敵である周防達也が美桜の目の前に座り、指先で銀貨を弄びながらささやいた。「父親も、恋人も助けたいんだろ？」

「俺の芝居につきあえば、助けてやるよ。どうだ？」

あの日、自分はどんな顔をしていたのか思い出せない。ただ、今この鏡に映る自分よりは、きっと血の気があったはずだ。

日向美桜はバスルームの鏡の前に立ち、自分の顔がすっかり青白くなっているのを見つめた。

休眠薬が効き始めている――皮膚の下の血管は不自然な紫色を帯び、指先は痺れ、息をするのさえ重くなる。

この薬は、半月かけて体を徐々に衰弱させ、病死に見せかけて新しい人生への準備を整えるものだ。

彼女はプールサイドに立ち寄り、冷たい水に手首を沈めて、少しでも意識をはっきりさせようとした。

そこへ白鳥紗耶香が立ちはだかった。「将平様がどうして私を選んだか、分かる？」

「興味ない。」

「でも、私は話したいの。」白鳥紗耶香の目に血の色が浮かぶ。「私ね、将平様にこう言ったの。昔、あなたが私にいじめてくれって頼んできたって。」

美桜の目が大きく見開かれる。

「あなたは彼の気を引くために、わざとあんな芝居をしてたんだって。」白鳥紗耶香の笑みは、毒を含んだ刃のようだった。「彼はそれを信じた。あなたの本性は卑しい女だって。」

「三年前、あなたが出て行った後、彼は海に飛び込んだの。私が助け上げたけど、三日三晩高熱が続いて、ずっとあなたの名前ばかり呼んでた。」

美桜はその場を去ろうと背を向けたが、手首を強く掴まれる。

白鳥紗耶香はグラスを揺らし、赤いワインが美桜の手の甲に飛び散った。「そのとき気付いたの。彼はあんたを忘れられないって。だから――」

彼女は突然、美桜の耳元に顔を近づけて冷たい声で囁いた。「今年の誕生日の願いは、たった一つ――」白鳥紗耶香の口元に不気味な笑みが浮かぶ。「あなたに、消えてほしい。」

その言葉と同時に、白鳥紗耶香は勢いよく後ろに倒れ、プールの縁に額を強く打ちつけた。

鮮血がサンゴのように水中に広がる。

駆け寄った将平に、白鳥紗耶香は弱々しくプールサイドの美桜を指差した。「日向美桜に、突き落とされた……」

「彼女の血を使え！」将平は激怒し、「血液型が合うなら、全部抜き取ってやれ！」

医務室で、白鳥紗耶香はベッドに横たわり、顔色も良く、将平の手を甘えるように握っていた。「将平様、すごく怖かった……」

将平は優しく彼女の手を撫で、しかし美桜に向ける視線は氷のように冷たかった。「ベッドに横になれ。」

美桜は動かなかった。

「二度言わせるな。」低く、逆らえない圧を込めた声。

看護師が血液採取の準備を進め、針先がライトにきらりと光る。

美桜はゆっくりと別のベッドに歩み寄り、横たわった。

彼女の腕は透き通るように白く、青い血管が浮かび上がっている。

針が刺さる瞬間、彼女はかすかに身を震わせた。

将平は冷ややかに見下ろす。「弱いフリしても無駄だ。前はもっと平気だっただろう？」

美桜は目を閉じ、何も言わなかった。

血液は透明なチューブを伝い、意識が遠のいていく。

もともと薬で体力は限界だった。無理やり血を抜かれれば、身体はさらに弱る。視界が暗くなっていく。

この感覚は、三年前を思い出させた――将平が血まみれで病院に運ばれたあの日。

医者は、失血がひどくて輸血が必要だと言った。

美桜はこっそり献血センターに行き、300ccの血を抜いた。

立ちくらみで倒れそうになりながらも、病室の前まで彼を見に行った。

そのとき彼は昏睡状態で、眉をひそめながら、唇からは何度も美桜の名前が漏れていた。

けれど今、美桜の血は白鳥紗耶香の身体に流れている。

これほど皮肉な運命は、ほかにない。