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毒を抱いて嫁ぐ:身代わり花嫁の逆襲
毒を抱いて嫁ぐ:身代わり花嫁の逆襲
レモンティー
現実世界現代ドラマ
2025年07月03日
公開日
5.7万字
連載中
前世で家族に裏切られ、命を奪われた早川奈緒は、強烈な復讐の念とともに再びこの世に甦る。冷酷な家族の策略により、余命わずかな九条家当主の“身代わりの花嫁”として差し出された奈緒。しかし、今の彼女はもう従順な娘ではない――録音、証拠、戦略を駆使し、結納金三十億を掌握したその瞬間、復讐劇の幕が上がる。 病に倒れた九条凛との取引、命を狙う生命保険の罠、そして芸能界というもう一つの戦場へ。 「今度は、私が全てを奪い返す――」 陰謀と愛憎が交錯する中、奈緒は“身代わり”から“主役”へと昇りつめていく。

第1話 炎の中から蘇り、身代わりの花嫁として


朝の光がカーテンを突き抜け、部屋に差し込んだ。


早川奈緒はぱっと目を開け、ぼんやりとした視線を壁のカレンダーに向ける。その瞬間、前世で悲惨な最期を遂げた記憶が氷のように脳裏を突き刺した――まさに今日だ!身内に手ずから地獄へ突き落とされたあの日!


胸の奥で煮えたぎる憎しみが息を詰まらせるが、すぐに冷たい静寂がそれを包み込む。前の人生はもう終わった。今度の早川奈緒は、ただ復讐のために生きる!


奈緒は深く息を吸い込み、込み上げる感情を無理やり押し殺した。外から重い足音が近づいてくる。


「ドンッ!」と乱暴にドアが蹴り開けられ、怒りに満ちた大柄な影が部屋に飛び込む。奈緒の腕を有無を言わせず掴み、無理やり引き起こした。

「早川奈緒、聞こえないのか?」


奈緒の目が冷たく光る。彼女は男の手首を素早く反転して掴み、強く振り払った。同時に指先でスマートフォンの横をさりげなく押し、録音を開始する。


早川拓海は思わずバランスを崩し、「従順な妹」と思っていた奈緒を驚きに見つめた。怒りが一気に爆発する。

「九条家の人がもうすぐ来るのに、まだ寝てるつもりか?まさか愛花を連れて行かせたいのか?」


奈緒は冷ややかな視線で拓海の顔を射抜く。その鋭さに、拓海は思わず身震いした。


「へえ、九条家に連れて行かれちゃ困るの?」

奈緒は皮肉な笑みを浮かべる。

「婚約してるのは早川愛花でしょう?九条家の当主が余命いくばくもないと知って、今さら私に押し付けるの?愛花が未亡人になるのは嫌でも、私がそうなっても構わないってこと?」


拓海は言葉に詰まり、目をそらして強引に言い返す。

「お前と愛花は違うんだ!愛花がそんな風に嫁いだら、一生台無しだろ!」


奈緒は鼻で笑った。


その笑い声が、拓海の怒りに火をつける。今にも怒鳴ろうとしたその時、涙を浮かべた愛花が駆け込んできた。


「兄様、お姉さんを責めないで!私が嫁ぐよ、それでいいでしょ?……彼が死んだら私……」

言い終える前に、愛花は「うわぁっ」と声を上げて泣き崩れ、青白い顔で今にも倒れそうだ。


「もうやめて!」

強い女性の声が響く。奈緒の母・早川雅子が、智洋と将史を連れてドア口に立ち、奈緒を責めるような目で睨みつけている。その視線は、まるで奈緒が許されざる罪を犯したかのようだ。


「早川奈緒、愛花はお前の妹なのに、追い詰めてどうするんだ!」

智洋が拳を握りしめる。


将史もすぐに続く。

「そうだよ!死ぬわけじゃないんだし、身代わりで嫁ぐだけだろ?あの人が亡くなったら、お前は自由になれるんだぞ?」


家族の理不尽な態度に、奈緒は怒りを通り越して呆れたように笑った。


前世の自分なら、きっと必死に反論し、結局は無理やり薬を飲まされ、裸の写真や映像で脅されて身代わり嫁にされただろう。耐えきれず、窓から身を投げたあの日の痛みがよみがえる。


深く息を吸い、奈緒の瞳はさらに冷たく研ぎ澄まされた。


「いいよ、私は断った覚えはない」

奈緒は不意に微笑み、机に歩み寄ってサッと紙を取りペンを走らせた。スマートフォンのカメラは静かに家族へ向けられる。


家族は呆然と奈緒を見守る。


やがて、奈緒は「断絶関係証明書」を書き上げ、彼らの前に差し出した。その声は静かだが、逆らえない迫力を帯びていた。

「これにサインして。弁護士に公証させて。本当にそうしたら、今すぐ身代わりで嫁ぐわ」


室内は静まり返る。


すぐに、奈緒を小馬鹿にしたような声が浴びせられる。


「何様のつもりだ?関係を断ちたいなら、いくら欲しいんだ?」

将史が嘲りながら証明書を手にする。


拓海は冷たい目でカードを投げつけた。

「三百万入ってる。これで満足だろ。泣き落としするなよ、ただ嫁ぐだけじゃないか。大げさなんだよ」


愛花は証明書を見て、ほのかな喜びを一瞬見せると、さらに激しく泣き出した。

「お姉さん、やめてよ!私が悪かった、私なんてこの家にいなきゃよかった……お姉さんに受け入れてもらえないなら、あの日戻ってきた時に出ていくべきだった……」

そう言いながら、力なく拓海の胸元に倒れ込む。


「愛花!」

拓海は彼女を抱きしめ、奈緒を怒鳴りつける。

「早川奈緒!家族をバラバラにしたいのか!」


「私は本気よ」

奈緒は静かに微笑む。

「条件は一つだけ。署名して、公証して。それだけで嫁ぐわ」


家族の偽りの怒りに、奈緒は前世の自分の愚かさを痛感した。あの安っぽい家族のために、命まで投げ出したなんて!


幼いころ行方不明になった奈緒の代わりに、家は愛花を養女に迎え入れた。その間、奈緒は路上で彷徨い、神主の養父に拾われなければ、野良犬の餌食になっていただろう。だからこそ、前世で「家族」に殺されたのだ。


生まれ変わった今、最初にやるべきことは、この寄生虫のような鎖を断ち切ることだ!


「後悔しても知らないわよ!」

雅子は冷たい声で使用人に命じた。

「今すぐ弁護士を呼びなさい!」


雅子の慌てぶりは、奈緒が考えを変えないかと怯えているようだった。


三兄弟も顔色を変えたが、母の命令には逆らえない。


弁護士はすぐにやってきた。タブレットの冷たい光が奈緒の無表情な顔を照らす。


拓海は何か言いかけたが、愛花のすすり泣きで口をつぐむ。智洋と将史が止めようとするも、雅子が冷たく嘲る。

「私たちの家を出て、どうやって生きていくつもりかしらね」


手続きはあっという間に終わった。


奈緒は署名も押印も済んだ断絶関係証明書を写真に収め、丁寧にバッグへしまい込む。


「どいて」

淡々とした声で、家族を無視して階段を下りていく。


「厄介者め!私を殺す気なの?!」

雅子は震えながら、奈緒の背にスマートフォンを投げつけた。


だが奈緒はすでに一階のホールへ。ふと目をやると、玄関には高級な贈答品が山のように積まれている。

一つ開けると、中はまばゆい宝飾品ばかり。その価値は計り知れない。


「これ、全部九条家からの結納金?」

奈緒は九条家の執事に尋ねた。


「はい、早川様」

執事が恭しく答える。


駆け下りてきた家族は、その様子に言葉を失う。


奈緒は身分証を取り出し、執事に差し出した。

「最高ランクの銀行貸金庫を用意して。今すぐ、この品すべて預け入れて」


執事は一瞬戸惑う。


奈緒は毅然とした態度で言い切る。

「結納金は、私のものでしょう?」


「もちろんでございます!」

執事は慌てて答える。


奈緒は顎を上げ、きっぱりと言い放った。

「なら、全部持って行って!」


その声に、玄関先に待機していた護衛たちが次々と動き出し、贈答品をすべて車へと運び出す。


早川家の門前は、急に慌ただしい雰囲気に包まれた。


「早川奈緒!何をしているの?!」

雅子は、三十億もの価値がある結納金がすべて運び去られるのを見て、目の前が真っ暗になり、今にも倒れそうになっていた。

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