目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話 彼女と逃走……オレ土地開拓始めました

『アンタもやればできるじゃない。さ、腐る前に街の外へ捨てて来なさい』

「わかりました……お姉様……。とでも言うと思ったか!!」


(本当にごめんな。未来……。今すぐ仇を討ってやる!!)


 オレは、まばらに血が付着したナイフを強く握りしめる。仇を討つと言ったが攻撃したのはオレ自身。

 しかし『攻撃しろ』と言ったのは、爆弾を隠し持つライチだ。オレには罪と復讐の二つがある。これを果たすのが新たな目的。

 未来を守る。公爵家の攻撃から守る。オレは、ライチを一度黙らせたあと、街から離れることを決意した。


「あらら、もの聞きが悪いわね……。ごめんなさい。サクラはもう終わりよ」

「んだとぉ!!」

「こちらにはまだ奴隷がたくさんいるのよ。残虐な殺戮兵器が」

「さ、殺戮兵器!?」

「咲夜……くん。もう、言い争いはやめ……て……」

「未来!!」

「まーだ死んでいなかったのね……。爆弾でも食わせようかしら?」


(爆弾食わせるってどんな頭してんだよ!!)


 ライチは殺戮兵器どころではない。完全な馬鹿野郎だ。そんなテロ集団のような発言は聞きたくもない。

 加えて、未来に爆弾を食わせるなどできっこない。思考回路そのものが殺戮兵器だ。

 まだ逃げるには早すぎる。近づけば爆弾で返り討ち。オレも魔物に囲まれて、身動きも取れない。

 一番頼りになる未来も瀕死状態だ。


(こうなったら!!)


 一度未来の魔法効果を思い出す。彼女の魔法は火属性。血液はオレの足を赤く染めている。

 目からは不安と罪悪感と怒りの涙。溢れすぎた水晶が落ちると、未来の血で蒸発した。もしや血液にも火属性が?


「なるほどな。直接刺すのは真っ平御免だが、これなら行ける!!」


(すぐにひるませて避難させる。だから……)


 オレは未来の血をナイフに塗りつける。もしこれで、彼女が貸してくれた剣を出現できるのならば!!


 ――ブウォン!!


「剣が……伸びた……。行ける!!」

「あらまぁ。そんなもので私を倒せるのかしら。反吐が出ますわ。サクラは一人では生きて行くことすらできないのに……」


(頼む!)


「バーニングブラスト!!」


 オレは勢いよく回転斬りを決める。ブラストと言うだけあって、オレと未来を包み込むと、出口が生まれてそこから逃げる。


「もう少しで街の外に……」

「う、うぅぅぅ……」

「未来!?」

「さ……くや……くん……」

「未来大丈夫か!?」

「う、うん……。なんとか……」

「もう少しで街の外に出る。それまで演技でもなんでもいいから、未来はまだ死んでてくれ・・・・・・!!」


 このセリフを言った時には、彼女は気を失っていた。オレの攻撃で彼女の身体はボロボロ。傷口も大きな亀裂レベルの重症。

 意識があるのも不思議なくらいだ。

 少しづつ見えてくる街の門。約30分の移動に彼女の傷が悪化する。今は茂みを探すしかない。そこでならオレ達は自由の身。

 平原を進み始めてからさらに20分。なんとか木陰のある茂みに辿り着き、未来を寝かせてから大きな木にもたれ掛かる。


「やっと逃げ切った……。未来……。未来大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよ……。少し寝てただけだし……」

「にしても、あの発狂は流石だな。ちっとオレもやりすぎたが……」

「それくらいでいいんじゃない? うぐゥゥ……」

「未来!?」

「早く……。早く回復魔法を唱えないと……」

「今は無理すんな!!」

「だ……め……だよ……。自然治癒じゃ間に合わない……から……」

「あとどれくらい耐えられるんだ? オレが聖導士を連れて来てやる!!」

「最長で3日間なら……。できるだけ早く呼んできて……」

「3日間か……。わかったオレに任せてくれ!!」


 たったの3日間。でもまだ3日もある。もうあの街には戻れない。追放されたのも同然だ。

 オレは未来の身体を茂みの深い場所に隠す。幸い皮膚に触れる草が薬草だったため、少しは回復してくれるだろう。

 全身を覆うようにして、オレは街とは真逆の方向へ走る。村がある保証はない。今のオレは風来者。


「絶対助けを呼んできてやる!!」


 走らないといけない。胸を気にしてはならない。足を動かすことだけ考える。とにかく前へ進む。


『な、なになのッ!! あ、あああ、アイスボール!!』

『ミカエル!! ぼぼボクも!! えいやぁ!!』

『このゴブリンつよつよなのぉ……。これじゃあ魔力持たないのぉぉぉぉ!!』


(どこかで戦闘しているのか?)


 オレは声がする方へ向かう。そこには大量のゴブリンと戦う三人の冒険者。どう見てもゴブリンが優勢だった。

 瞬間的に危険を感じ、ドレスの袖からナイフを取り出す。走る速度を殺さずに斬りかかった刃は、見事ゴブリンへ命中。


「貴方は一体?」

「自己紹介はまたあとだ!! 今はコイツらを!! オリャァァァァァァァ!!」

「す、すごい……。あんな身体なのに……」

「まだまだ!! せぇいッ!!」


 ――ウガァァ……!? ピシャン!!


「これで全滅か……。みんな大丈夫か?」


 結局彼らの見せ場を奪ってしまったオレ。結果オーライにはなっただろうが、オレの容姿が気になるようで……。


「そ、そのありがとなのです!」

「すみません。助けてもらっちゃって……」

「なんのなんの。礼なんかいらねぇって。オレは金森咲夜。見た目は巨乳女だが中身は腹黒の男だ。君たちは?」

「はは、初めまして……。せせ、聖導士のミカエル・アントワです……。あたし冒険者になったばかりで……」


 はじめに名乗り出たのはミカエル。さっき弱気な男子が呼んでいた少女。身長は150程だろうか? 桃色の三つ編み女子だ。


「お、同じく冒険者のレノン・ファンクスです。12歳です……。弱いけど剣士やってます……」

「俺はガノン・ファンクス。レノンの双子の兄だ。基本は監視役だけどな」

「いや、ガノン戦わんのかーい!!」

「あはは、咲夜さんって面白いお方なのです!!」


 オレのツッコミで盛り上がる冒険者達。だけど無事に聖導士を見つけられた。こんなにもすんなりとは思わなかったが……。

 ミカエル達に事情を話し、四人で未来の元へ帰る。ミカエルのおかげで傷口はキレイに塞がれ、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 これにはオレも感無量……。ポロポロ涙を流しながら、愛しき未来を抱きしめる。


「咲夜くん……。ありがとう。ミカエルさんにレノンさん。ガノンさんもありがとうございます」

「いえいえ、咲夜さんへの恩返しなのです!! 礼は不要なのです!!」

「あん時はヒヤヒヤもんだったからな!」

「良ければ一緒に来て欲しいのです!」

「はぁ?」

「あたし達には家がないのです。家を見つけて欲しいのです!!」


 旅は道連れ。オレに仲間が増えた。だけどオレも未来も家がない。ただ、オレ達ができることとすれば……。


 ――ポロン!


「未来通知か?」

「う、うん。開くよ」


〝おめでとうございます


ペアスキル2【職業無双・スーパー大工】


 のレベルが2になりました。

 追加された効果は以下の通りです


 レベル2効果


 ・高速伐採(木こり職追加)


 武器種問わずに木を伐採可能。大半の樹木は一発で伐採可能。


 ・スーパー建築(建築職・加工職追加)


 伐採した木材を瞬時に加工。


・スーパー設計士(建築職サブスキル)


 瞬時に設計図作成。建設時の成功率上昇。


 以上です。これからのご活躍を楽しみにしています。


 裏日本冒険者ギルド協会本部より〟


「レベル……アップ……」

「いや待て!!」

「咲夜くん!?」

「〝高速伐採〟。〝スーパー建築〟。〝スーパー設計士〟。つまりは……。『自分で家を作れ!』ってことだろ?」

「気づかなかった。考えて見ればスキルは揃ってるね……」

「んじゃみんな!! これから木を伐採に行くぞ!!」


 ここまで嬉しいことはない。加えてここまで重労働になるとは思っていない。

 だけど家を手作りできるのは、とても楽しいはずだ。

 五人で目指す場所は木々の多い樹海。そこで幹の太い樹木をかき集め、加工スキルで建材に変える。

 ただ、どう運ぶのか……。それが問題だった。


「咲夜さん!! まもなく樹海なのです!!」

「ミカエル助かるよ……。未来。風魔法とかは可能か?」

「できるよ。ちょっとやってみる。チェンジタイプブロウ!! エアカッター!! フォームエクストラ!!」


 未来の属性変換。ローブが炎のオレンジから風の緑に変わっている。彼女のローブは使用属性と連動しているようだ。

 発生した風刃は次々と木に当たり、ドサドサと切り倒していく。それも全て一発だ。


「えーと、1……10……20……100……1000……2000。あと7000本か……。今度はオレが!! ワイドスラッシュ!! 連斬!!」

「咲夜くん!!」


 ――ドババババババババババババババババァァァァァァァァァァァァ!!


「すすす、スゴすぎなのです!!」

「は、はい……」

「ふむふむ……。手応えありか……」

「ガノン兄さん?」

「なんでもない。気にするな……。ただの独り言だ」

「ふぅ……。これで9000本。デカめの一軒家なら建てられるな」


 欲しい本数は手に入った。次はこの木を運ぶのだが、それだけの人数はいない。

 改めて樹海を見る。そこには大量の切り株があり、取り除けば家を建てることができそうだ。ならば……。


「未来!! ミカエル!! レノンガノン!! ここに村作るぞ!!」

「む、村!?」

「そうだ、村だ!! 切り株を片付けるところからだな」(めんどくせぇけど……)

「了解なのです!! 大将!!」


(た、大将ってマジかよ。ま、まあいいか……。けど、ここからどうする? スコップないからなぁ……)


「それなら私たちに任せてよ」

「未来?」

「そうなのです!! あたしもお手伝いするのです!!」

「ミカエルもありがとな」

「いえいえなのです!! 未来さん。整地するのです!!」

「根まで燃やした方がいいのかな?」

「未来さんは火属性が得意なのですか? あたしは水属性が得意です。消火は任せろなのです!!」


 ニコニコしながら会議をする未来とミカエル。まるで女子会のようで、中身男のオレは入ろうにも入れない。


「チェンジタイプバーン!! フレアダイナマイト!! フォームポイント!!」

「アクアスプラッシュ!! フォームポイント!! なのです!!」


 二人の魔法使いが唱える。未来は得意技の火属性魔法で切り株ごと燃やし、ミカエルは水属性で消火作業。

 初対面にも関わらず、コンビネーションは抜群だった。ちゃんと建材を避けているし、見る役のこちらも楽だ。


「咲夜くん!! これくらい整地すれば大丈夫かな?」

「ちょっと確認するか……えーと……」


(ここには巻尺というものがない。巻尺があれば距離をより詳しく測れるのだが……。いや、方法はある!!)


 ――ゴロゴロゴロ……。


「咲夜さん。何をされるのですか?」

「ちょっと距離測るためにだな……」


 ――ゴロゴロゴロゴロ……。


 オレは丸太を伐採前の木の根元へ並べる。切った時の面同士を合わせ、快適な広さまで模索を続ける。

 早い段階で二階建てなどはまず不可能。ここは平屋建てにするとして、奥行き優先で作業を進めていく。


「こんなもんでどうだ?」

「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」

「目算で敷地面積は一般的な一戸建ての二軒分。約78坪くらいだな。次は設計図と工具の調達なんだが……。」

「こうぐ? 工具って何?」

「レノン知らないのか? ドライバーとかノコギリとか金槌とか、あとはビスにネジだろ? 釘やくいも必要なのか……」

「あたしそういうのは初耳なのです!! ここでは見たこともないのです!!」

「ま、マジかよ。そりゃそうだろなぁ……」


 いつの間にか、巨乳は気にならなくなっていた。もうこのまま巨乳系美少女悪役令嬢でもいい。未来と一緒ならなんでもいい。


 ――ポロン!


「また通知……。開けるよ」

「おう!!」



〝おめでとうございます!!


ペアスキル2【職業無双・スーパー大工】


 のレベルが3になりました……〟

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?