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第11話 特別任務

涼太のマンションでは、戦略シミュレーションのスキルが休みなく稼働していた。ホワイトボードには写真や付箋がびっしりと貼られ、赤い糸が入り乱れて蜘蛛の巣のようだ。


【システム緊急通知】

【特別任務発令:クインテット】

【目標:24時間以内に5人の女性から同時に好感度を上げよ】

【報酬:「運命の選択」最終スキル解放】


スマートフォンが立て続けに震え、ほぼ同時に5件のメッセージが届く。


1. 霧島遥からの暗号メール:「温泉の配管修理は完了。でも怪しい装置を発見、すぐ来て」

2. 藤原麗子のボイスメッセージ:「パーティーは今日の昼に変更。それと偽物の絵画を鑑定してほしい」

3. 早川千雪のショートメール:「父が予定を早めた。11時、羽田空港のVIPラウンジ」

4. 星野葵からの緊急コール:「ラボが爆発!父が昏睡状態」

5. 神宮寺綾の位置情報共有:「埠頭のコンテナエリア。警察は絶対に連れてこないで」


涼太はコートを掴んで飛び出した。その瞬間、システムが真紅の警告を表示する。


【警告!全ターゲットが同一の陰謀組織に関与】

【生存率予測:37%】


***


羽田空港のVIPラウンジで、早川千雪はJimmy Chooのヒールでイライラしながら歩き回っていた。涼太を見るや否や、エルメスのバッグを投げつけた。「3分18秒遅刻!」


バッグの中身が散乱し、その中には星野製薬の株式譲渡契約書が混じっている。


「お父さん、あのブラック企業を買収するつもり?」千雪は涼太のネクタイを強引に引っ張った。「星野家の顧問をしてる理由、ちゃんと説明してもらうから!」


涼太が口を開こうとしたその時、ラウンジの扉が勢いよく開いた。早川健一が6人のボディガードを連れて入ってくる。キツネのカフスが冷たく光っていた。


「姪っ子は相変わらずせっかちだな。」彼は涼太を一瞥し、「身内の話に外部の人間を連れてくるとは。」


千雪は涼太の前に立ちふさがる。「少なくとも、身内の裏切り者より彼の方がずっと信用できるわ。」


健一が突然笑い出した。「そういえば、星野家のお嬢さん、ICUに運ばれたらしいぞ…」わざと間を空けて、「爆発前、佐藤さんがラボに出入りしてたって噂だが?」


【早川千雪 好感度変動:+15/-20 危険な選択】


千雪はそっと涼太の小指に指を絡めた。その手は氷のように冷たかった。


***


同じ頃、涼太の「分身」は藤原家のギャラリー地下室にいた。麗子が紫外線ライトで絵画を照らす。「ここ、絵の具の蛍光反応がおかしいの。」


サインは葛飾北斎。だが、涼太の【鑑定マスター】がすぐに違和感を察知した。「絵の具じゃなくて、キャンバスの問題だ。これは第二次大戦時の軍用テント生地を使った偽物だよ。」


麗子が唇を涼太の耳元に寄せて囁く。「さすがね…それなら、私の叔父が製薬詐欺に関与してる証拠も見抜ける?」


彼女が照明を落とし、プロジェクターが監視映像を映し出す。そこには、早川健一と副院長がギャラリーの密室で交わす会話が、はっきりと録音されていた。「…星野葵が手術台で死ねば、株価は…」


【藤原麗子 好感度+25】

【情報解放:藤原家と早川家の確執】


***


東京湾の埠頭。綾の白衣が海風に煽られている。彼女は麻酔針をペン型の容器にセットしながら言う。「調べたよ。遥先輩の傷痕は、昔の医大での人体実験の痕だって。」


コンテナの陰から十数人の武装した男たちが一斉に襲いかかってきた。綾は最前列の敵を一本背負いで投げ飛ばす。「みんな…同じ傷痕がある!」


涼太の分身は落ちていたスマホを拾い上げた。最後の通話履歴は「Mr. Fox」。位置情報が示しているのは――


「温泉旅館…?」


涼太は思わずつぶやいた。


***


星野グループの私立病院、最上階の病室で、葵は酸素マスクをつけながら涼太の手を握る。「先生…ラボの爆発装置…父が自分で仕掛けたの…」


タブレットには監視映像の巻き戻しが映し出される。星野家当主が爆発前にラボへ忍び込み、何かの機器を換気システムに組み込む姿が記録されていた。


「逆算して…」葵は激しく咳き込みながら設計図を呼び出す。「父が本当に狙っていたのは…」


涼太の【戦略シミュレーション】が、最後のピースを繋げた。換気ダクトは隣の早川家療養所に直結している。


***


豪雨に包まれた温泉旅館は、死んだように静まり返っていた。涼太が制御室のドアを蹴破ると、そこにはサーバーラックの前で縛られた遥の姿。数十のシャーレから無色のガスが漏れ出している。


「早く逃げて!」遥がかすれた声で叫ぶ。「アイツら、心筋ウイルス株を温泉水の循環システムに入れたの!」


涼太の病原体視覚が、旅館全体を緑色の霧が覆っているのを映し出す。システム警報が激しく点滅した。


【遺伝子兵器を検出】

【臨時付与:免疫抗体合成(残り00:30:00)】


彼がロープを切った瞬間、遥は逆に涼太を押し出した。「無駄よ…私たち実験体はとっくに…」


浴衣の襟元が滑り落ち、鎖骨の下に刻まれたコード「E-107」が露わになった。


***


【クインテット任務進行状況】

1. 早川千雪:空港で対峙中(好感度+20)

2. 藤原麗子:証拠入手完了(好感度+25)

3. 神宮寺綾:埠頭で激戦中(好感度+30)

4. 星野葵:病室で推理中(好感度+40)

5. 霧島遥:温泉旅館で救出(好感度+50)


涼太の本体は豪雨の中に立ち、5人の分身の記憶が一気に押し寄せてきた。システムが突然、ホログラムを投影する。


【最終選択】

【A.霧島遥を救う(全好感度消費)】

【B.早川健一を阻止する(メインストーリー進行)】


スマートフォンには同時に5つの位置情報が届く。その座標は電子マップ上で一直線につながり、東京タワー地下施設を指し示していた。

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