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第2話 シンデレラボーイ

 タワマンの一室。4LDKくらい。

 ベッド、それもシングルベッドではなくキングサイズ。

 ふかふかのベッドで寝ているトオル。

 トオル、目覚める。ベッドで体をもぞもぞさせる。

「なんか、いつもと寝心地が」

 パッと起き上がると、いつものアパートではないことがわかる。

「?」

 そして、トオルは気づいてしまう。

 自分が今まで寝ていたところの隣に、女性がいる。女性が、寝返りをうったので、トオル

は顔をのぞきこむ。

 女性、目を開ける。

 彼女は甘い声で「どうしたの、とーくん?」と言う。

 トオル、パニック。すっぴんだが、神月ルカだとわかる。

「??」

「とーくん」

 トオル、慌ててベッドの傍らに脱ぎ捨てられていた私服を着はじめる。

「ま、間違えましたー」

 服を着たトオル、逃げるように、玄関から通路に飛び出る。





 エレベーターに乗り込みボタンを押すも、なかなか下に着かない。

「あ、そうだ。ケータイ」

 と尻ポケットを触ると、スマートフォンがある。そのスマートフォンが振動。

「ビックリした」

 スマートフォンには着信。『高原マネ』。

 トオル、電話に出る。

「すいません、やらかしたかもしれないです」

『やらかしてるよ。もう“クリントン”の撮影はじまってるよ』





 テレビ番組“クリントン”の撮影現場だ。

 特撮に使われるような広い敷地に、お笑いコンビが七組ほどいる。

 とにかく、規模の大きなロケ。

 クレーン車の先端に風船が吊るされている。

 芸人たち、だいぶん上のほうにある風船を吹き矢で割ろうと四苦八苦している。

 その様子の前で、高原マネージャーがスマホで通話している。

 高原マネが唾を飛ばしながらスマホに怒鳴る。「どうなってるの?ちょっとテングになっ

てるんじゃない?」





 トオルは呆然とした。

「俺、売れてる?」




 ロケ現場で休憩中の芸人たち。

 高原と吉沢とトオルが、プロデューサーに頭を下げている。

 三人は「申し訳ありませんでした」と声を揃える。

 プロデューサーは「いいって、いいって」と特に気にも留めない。





 ロケバスに乗り込むトオルと吉沢。

 高原が「ちょっと待機しててね」と言い残し、去る。

 ロケバスの前のほうと後ろのほうで離れて座るトオルと吉沢。吉沢は、スマホをポチポチ。

「あ、あのさ。驚くなよ」

「うーん」

「朝、起きたらさ」

「うーん」

「隣で誰が寝てたと思う?」

「うーん」

「隣で神月ルカが寝てたんだよ。やばくない」

「……じゃーん」

「だから、神月ルカがいたんだって」

「付き合ってんじゃーん」

「は?」

「話おわった?夜飯食うレストラン探してるから黙ってて」

 狐につままれたようなトオル。





 狐につままれたような表情のまま、気付くと遊園地に来ているトオル。相変わらず、事態

が飲み込めていない表情は続く。

 トオルの隣には、サングラスをした神月ルカが、トオルにカチューシャをつけている。

 周囲の観光客からバシャバシャとスマホで盗撮される二人。

「あれ、神月ルカじゃない?」

「あれ、神月ルカとキャベッツじゃない?」

「ルカルカ、ほんとに彼氏いるんだ」

「だれだっけ、キャベッツの」

「えーっと、キャベッツの二、ニモリ」

「そう、ニモリ」

「いや、神月ルカと釣り合ってないだろ」

 キッチンカーの前のテラス席で相変わらず呆然としているトオル。カチューシャなど勝

手につけられている。

「はい、あーん」

 ルカが、トオルにクレープを食べさせようとしている。

トオル、目がうつろなままクレープは食べる。





 テレビ番組“いわし御殿”に出演。

 いわし師匠がぶん回しているトーク番組。

「せやろ、ニモリ」

「そうっすねえ」

「いや、そこは否定せんと。かぁぁぁ。なんやねん、お前。なあ、吉沢」

「……は、はい?」

「そこは、『そうっすねえ』やろ。あかんな、キャベッツ。かぁぁぁ」





 テレビ番組“水曜日のアップダウン”。

 アップダウン(松木、浜野)の番組。

「続いてのプレゼンターはキャベッツ~」

 プレゼンターで出てくるキャベッツ。

 松木が「もう釈放されたんか」と言い放つ。

「捕まってねえんすよ」とトオル。

「ウワッハッハッ」

「やめてください。執行猶予中です」と吉沢。

 トオルは台本を叩きつけ、「あぁ?じゃあ、もう、ほんとにやってやるぞ、ゴルァ」

 浜野は「ウワッハッハッ」と大笑いばかりしている。


【つづく】

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