夜のシャインサン通りに立つトオル。
ガールズバーの客引きが多くいる。
立ち尽くすトオル。
エスタのライブの宣伝をしていた頃を思い出すトオル。
「い、いや……。あの時には戻りたくねーよな。絶対、今の、ほうが……」
トオルは気づくと、エスタ池袋の入るビルの前まで来ていた。
ヒロナからエナジードリンクを貰うところを思い出すトオル。
フラッシュバックかと思いきや、本物のヒロナが現れる。
ヒロナから見られるが、トオルを見る目は落ちているゴミでも見るような目で、まったく
関心のない様子。
ヒロナの行く先には前田が待っていた。二人、腕を組んで歩きだす。
その様子を見ているトオル。
トオル、目がバッキバキで、駆けだす。
そして、ヒロナの腕を取って連れてゆこうとする。
「え!?」
「ちょ、ちょっと」
前田が伸ばす手は既に遅く、トオルはヒロナを引っ張って夜の街へ。
*
夜の街。
スローモーション。
ヒロナの腕を引くトオル。
仕方なくついて行かざるをえないヒロナ。
街のネオンサインが乱れる。
*
シャインサンシティビルの屋外広場。
序盤でトオルが眠っていた場所と同じ。
息を切らすトオルとヒロナ。
「キャベッツのニモリ……?」
二人、ベンチに座り込む。
「なあ。ちょっと、今から訳わかんないこと言うけど、聞いてくれる?」
ヒロナは震えている。恐怖のあまり言葉も出ない。
「おれ、キャベッツのニモリね。うん。で、キャベッツは売れてるじゃん。この世界では。
でも、俺がもといた世界では、キャベッツは全然売れてないのね。いや、意味わかんないこ
と言ってるのはわかってるよ。俺だってわかってるんだよ。それで。で、前いた世界では、
あなた。ヒロナちゃん。あなたは俺のファンでした。うん。こっちの世界では俺のこと興味
ないかもしれないけど。前の世界では俺のファンでした。なぜなら……」
「??」
「あなたは俺に告白をしてきました。俺には別に彼女がいたわけではありませんでした。前
田司令官とか、付き合っちゃえよ、みたいな言われました。でも、俺は、あなたが真剣に告
白してくれたのにも関わらず、真摯に向かいあおうとしませんでした。だから、別に振ると
かでもなく、ノリでその場をやり過ごそうとしました。そうしたら……、そうしたらそこか
らちょっと記憶が曖昧なんですけど、多分あなたにビンタされたんだと思います。それで、俺の意識は落ちて、目が覚めたら、隣に神月ルカが眠ってました。神月ルカと付き合ってる世界でした。そして、めっちゃ売れてました。いわし師匠とか、アップダウンの番組に出てました。夢みたいでした。彼女が浮気してたのとか、マネージャーとか相方が闇カジノに出入りしてたのも発覚しました。でも、そんなんは些細なことで。なんか……。達成感がないんです。何もしてないのに急に売れっ子になってたから。そりゃ、前の世界でも必死に売れたいと思ってました。どんな手を使ってでも売れたかった。でも、はっきりと分かったんです。方法を間違ってる。だって、これじゃあチートじゃないですか。この売れ方だけは違う。贅沢を言ってるのかもしれません。でも、俺はこの世界にいるべき人間じゃない。なんだろうな。どこでもドアは便利だけど、電車とか飛行機とか乗る楽しみがなくなっちゃうじゃん、みたいな。もう、わかんないよね。どうでもいいから、もう一度ビンタしてみてくれません
か?」
ヒロナ、首を横に振っている。震えも止まらない。
「だよねー」と投げやりなトオル。
前田が近づいてくる。
「お巡りさん。こっちです」
警官二人、来る。
トオル、立ち上がって両手を上げる。
「動くな」
トオルが空を見上げた視線の先には大きな月がある。
トオルは小声で「もういいよ」と言う。
警官は強い口調で「なんだ?言いたいことがあるのか?」と問う。
トオルは腹からの大声で、「こんな世界、もういいよっ」とツッコむ。
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地表が薄いガラスのようにパリンと割れ、地球が粉々に。
そして、散らばった粉がまた集まって再度地球に。
>>
【つづく】