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第4話 元通り!?

 夜のシャインサン通りに立つトオル。

 ガールズバーの客引きが多くいる。

 立ち尽くすトオル。

 エスタのライブの宣伝をしていた頃を思い出すトオル。

「い、いや……。あの時には戻りたくねーよな。絶対、今の、ほうが……」

 トオルは気づくと、エスタ池袋の入るビルの前まで来ていた。

 ヒロナからエナジードリンクを貰うところを思い出すトオル。

 フラッシュバックかと思いきや、本物のヒロナが現れる。

 ヒロナから見られるが、トオルを見る目は落ちているゴミでも見るような目で、まったく

関心のない様子。

 ヒロナの行く先には前田が待っていた。二人、腕を組んで歩きだす。

 その様子を見ているトオル。

 トオル、目がバッキバキで、駆けだす。

 そして、ヒロナの腕を取って連れてゆこうとする。

「え!?」

「ちょ、ちょっと」

 前田が伸ばす手は既に遅く、トオルはヒロナを引っ張って夜の街へ。



 夜の街。

 スローモーション。

 ヒロナの腕を引くトオル。

 仕方なくついて行かざるをえないヒロナ。

 街のネオンサインが乱れる。



 シャインサンシティビルの屋外広場。

 序盤でトオルが眠っていた場所と同じ。

 息を切らすトオルとヒロナ。

「キャベッツのニモリ……?」

 二人、ベンチに座り込む。

「なあ。ちょっと、今から訳わかんないこと言うけど、聞いてくれる?」

 ヒロナは震えている。恐怖のあまり言葉も出ない。

「おれ、キャベッツのニモリね。うん。で、キャベッツは売れてるじゃん。この世界では。

でも、俺がもといた世界では、キャベッツは全然売れてないのね。いや、意味わかんないこ

と言ってるのはわかってるよ。俺だってわかってるんだよ。それで。で、前いた世界では、

あなた。ヒロナちゃん。あなたは俺のファンでした。うん。こっちの世界では俺のこと興味

ないかもしれないけど。前の世界では俺のファンでした。なぜなら……」

「??」

「あなたは俺に告白をしてきました。俺には別に彼女がいたわけではありませんでした。前

田司令官とか、付き合っちゃえよ、みたいな言われました。でも、俺は、あなたが真剣に告

白してくれたのにも関わらず、真摯に向かいあおうとしませんでした。だから、別に振ると

かでもなく、ノリでその場をやり過ごそうとしました。そうしたら……、そうしたらそこか

らちょっと記憶が曖昧なんですけど、多分あなたにビンタされたんだと思います。それで、俺の意識は落ちて、目が覚めたら、隣に神月ルカが眠ってました。神月ルカと付き合ってる世界でした。そして、めっちゃ売れてました。いわし師匠とか、アップダウンの番組に出てました。夢みたいでした。彼女が浮気してたのとか、マネージャーとか相方が闇カジノに出入りしてたのも発覚しました。でも、そんなんは些細なことで。なんか……。達成感がないんです。何もしてないのに急に売れっ子になってたから。そりゃ、前の世界でも必死に売れたいと思ってました。どんな手を使ってでも売れたかった。でも、はっきりと分かったんです。方法を間違ってる。だって、これじゃあチートじゃないですか。この売れ方だけは違う。贅沢を言ってるのかもしれません。でも、俺はこの世界にいるべき人間じゃない。なんだろうな。どこでもドアは便利だけど、電車とか飛行機とか乗る楽しみがなくなっちゃうじゃん、みたいな。もう、わかんないよね。どうでもいいから、もう一度ビンタしてみてくれません

か?」

 ヒロナ、首を横に振っている。震えも止まらない。

「だよねー」と投げやりなトオル。

 前田が近づいてくる。

「お巡りさん。こっちです」

 警官二人、来る。

 トオル、立ち上がって両手を上げる。

「動くな」

 トオルが空を見上げた視線の先には大きな月がある。

 トオルは小声で「もういいよ」と言う。

 警官は強い口調で「なんだ?言いたいことがあるのか?」と問う。

 トオルは腹からの大声で、「こんな世界、もういいよっ」とツッコむ。


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 地表が薄いガラスのようにパリンと割れ、地球が粉々に。

 そして、散らばった粉がまた集まって再度地球に。

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【つづく】

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