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第17話 エピローグ

アリステリアが紅茶を一口すすり、静かな午後のひとときを楽しんでいたそのときだった。


「……アリステリア様、あの……」


おずおずと現れたのは、例の元聖女ミレイユ。両手を胸の前で組み、小首をかしげながら恥じらいを装っているが、その眼差しの奥に潜む期待の色はもはや隠せていない。


「なにかしら? また変なお願いじゃないでしょうね」


「いえ、あの、今日は……別に悪いことをしたわけではありませんし、必要もなしにお仕置きなんて、いただくつもりはありませんっ」


「なら、何の用ですの?」


「……その……ご褒美を、いただけないでしょうか?」


「ご褒美?」


アリステリアは怪訝な顔を浮かべた。


「何を望むのかしら? 焼き菓子?それとも、新しいティーセットでも……」


「いえ……ご褒美に、鞭を……♡」


「は?」


まばたきひとつ分の静寂の後、アリステリアはぴしゃりとテーブルを叩いた。


「お仕置きが鞭で、ご褒美も鞭!? どれだけ変態なのですの!? なんでも鞭で喜ぶんじゃありませんわよ!」


「ですが、あの感触が……背筋に走る稲妻のようなッ♡」


「やめなさい、顔を赤らめながら語らないでっ!」


さらにその騒ぎに、庭から飛び込んできた魔王が加わる。


「お気持ち、わかりますぞ女王様!! 私も、あの一撃で人生が開眼した口でして!」


「お前もかーーーッ!!」


ついに堪忍袋の緒が切れたアリステリアの手には、いつの間にか愛用のセイント・ローズが握られていた。


「お黙りなさい、変態どもーーーッ!!」


ピシィィィィィィン!!!


乾いた音が静寂を引き裂く。


ミレイユは恍惚の表情で膝から崩れ落ち、魔王は感涙しながら「ありがたき幸せ……!」と絶叫した。


「なぜ私の周囲には、こうも変態ばかりが集まるのですの……!!」


嘆きながらも、アリステリアは再びティーカップを手に取った。


紅茶はまだ、ちょうど飲み頃の温度だった。




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