目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
東の風はいずれ西の風となり
東の風はいずれ西の風となり
美玲
BLファンタジーBL
2025年07月05日
公開日
5.3万字
連載中
物語は友安国の若き皇太子、清蓮(せいれん)が、国の後継者として認められる、重要な儀式である「成人の儀」を迎えるところから始まる。 天災と疫病の流行によって成人の儀は三年遅れ、十九歳になった清蓮はようやくこの日を迎えた。 「この日を市井の人々と分かち合いたい!」 そんな清蓮の願いから、儀式は初めて民に開かれたものとなった。儀式は熱狂的な祝福の声に紛れて、招かれた人々の一部が暴徒と化し、清蓮を襲う。その瞬間、白い閃光が走り、清蓮の前で爆ぜた。 混沌とする中、清蓮が目を開けると、見知らぬ男の腕の中にいた。清蓮の窮地を救ったのは、白い閃光とともに現れた謎の男だった。 儀式からしばらく経ったある日。清蓮の両親は何者かによって暗殺され、その罪が彼に着せられる。 真実を求めて逃亡を始めた清蓮は、再びあの日の男と出会う。男は多くを語らず、どこか懐かしいまなざしを清蓮に向ける。 忘れていた記憶、秘められた真実、そして静かに近づいていくふたりの距離。 それは偶然ではなく、遥か昔から続く物語の一部だった—— キリのいいところで第一部としています。 加筆修正した内容は適宜ウェブにも反映していますが、 その段階でエピソードが重複、欠如など読みにくいところもあるかもしれません。 ※読んでいただきありがとうございます。本作は無断転載・引用をお控えくださいますよう、お願い申し上げます。 本編+番外編の構成 本編はストーリー重視 番外編は自由に書きます

第一話 皇太子・清蓮

ある冬の日の昼下がり、一人の若者が窓辺から空を見上げていた。晴れ渡る空は、窓辺に佇む若者の心そのままに、青く澄み渡っていた。若者の名は清蓮せいれん友安国ゆうあんこくの皇太子。今日は彼の人生の節目となる、成人の儀が執り行われる日であった。


成人の儀とはその名の通り、後継者が成人となったことを祝うとともに、この日をもって正式に友安国の継承者として認められる、宮廷で執り行われる最も重要で荘厳な儀式の一つである。


「それにしても、長かったな……」


この日を迎えるまでの道のりを考えると、清蓮がそう言うのも無理はなかった。それというのも元来、成人の儀は清蓮が十六歳の時に行われるはずだったからである。ことの顛末はこうだ。


三年前、清蓮は十六歳となった。国を挙げての祝賀はすべての準備が完璧に整い、あとは当日を迎えるだけであった。不運にも当日の深夜から降り始めた大雨は、時間がたつにつれ激しさを増し、国一番の大河、無間川が氾濫、各地に甚大な被害をもたらした。


当然のことながら儀式は延期、復興が国の最重要課題となった。さらにその復興を阻むかのように、翌年には疫病が発生した。昨年になってようやく国土も落ち着き、疫病も終息に向かうと、人々は日常を取り戻しつつあった。


人々の間では、皇太子を不憫に思う者たちも少なからずいた。しかしそこで暮らす人々にとっては、世の泰平、生活の安定があってこそ、お祝いしてあげようというもので、国を挙げての祝祭にはまだ時間を要した。


無間川の氾濫から三年。儀式を妨げるすべての要因が取り除かれるに至って、清蓮はようやくこの日を迎えることができたのである。


国を挙げての祝賀は、成人の儀の三ヶ月前から各地で始まり、友安国の人々は歌い、踊り、酒を飲み、見たことも、会ったこともない皇太子を無条件に祝福したのである。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?