リオン・ルーシェンレッド、19歳。
晴れて公爵家の継承者争いに負けた俺は、辺境の孤島・ジーリン島にやってきた。
俺に与えられたのは、王都から馬車で丸七日、そのあとさらに船で一時間というド辺境島の領主生活。
仮にも公爵家の血筋を引くってので与えられた仕事ではあるが――まぁ、いわゆる敗者の島流しってやつだ。
元々俺は側室の子で、三つ下の弟が正妻の子。
血筋的にも人当たりの良いまじめな性格的にも、俺なんかより弟のほうがよっぽどいい当主になるに決まってる。
大体、俺には堅苦しい服を着て腹の中を探りあうような貴族生活よりも、自由とトロピカルフルーツのほうが間違いなく似合ってるのだ。
だからこの辺境送り自体には万々歳なのだが、それを知ったややブラコンの弟は半狂乱で俺を引き止めてきた。
「兄上一人だけ逃げてずるい! 剣術や学識も僕が上だなんて、兄上が本気出してないだけでしょう?!」
なんて、完全に俺が手を抜いたのがバレてる。
ふふふ……兄ちゃんは勘のいい弟は嫌いだよ。
訓練も勉強もない、太陽と潮風と共に暮らす夢のようなスローライフをここで手放すわけにはいかない。
そう固く決意した俺は、真剣な顔で弟の両肩に手を置き、
「次はお前の時代だ。――がんばれ!」
とエールを送ってその日のうちに速攻で家を出た。捕まらないうちにとっとと領地も出た。
俺がいなくなったことで、今頃弟は阿鼻叫喚の中、父上に捕まっていることだろう。
頑張れ、弟。兄ちゃんは南国でフルーツ片手に応援しているぞ。
そんなことを考えながら桟橋に立っていたら、俺の荷物だけポツンと残し、乗ってきた船はさっさと元来た海の果てに消えていってしまった。
――自由とは予想以上にしょっぱいものらしい。
「……訳アリの島、なのかねぇ……」
訪れたばかりのジーリン島は、緑豊かで、白い砂浜と青い海のコントラストが美しいのどかな島だった。
見渡す限りの大自然。
領主、というくらいなのだから当然領民もいるはずだが、今のところ、不気味なくらい人の気配はない。
俺の耳に届くのは潮騒の音と海鳥たちの声だけだ。
避暑地としてなら申し分ないほどの風光明媚さを持つこの島が、家督争い敗者でもある俺に与えられるとは到底思えないが、さてさて、どうしたものか。
そう考えてひとまず潮風に吹かれるまま海を眺めていたら、急に現れるかのように背中に涼やかな声が届いた。
「ごきげんよう。――リオン・ルーシェンレッド様でよろしくて?」