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第6話 ヘルミナとの会話

 ホークスさんが去った後、入れ替わりのようにヘルミナさんがやってきた。

「ごめん、待った?」

 ヘルミナさんは隣に座るとバーテンにカーディナルを注文する。

「今日はどうだった?」

「いろいろありましたが、なんとか一日を終えそうです」

 そんな言葉を交わしているとヘルミナの席にグラスが置かれる。

「とりあえず乾杯。今日は、お疲れ様」

 グラスを当てると一口飲む。

「どう? やっていけそう?」

「はあ……魔術やら魔法の関わる犯罪を捜査する機関ですよね。研修で話はいろいろと聞いているんですけど……魔術の関わる犯罪ってイマイチ想像できないんですよね」

「妖精とか魔術や呪いとかが関わる事件は、見極めが難しいものも多いから、その事を理解していないと、最初からつまづくわね」

 要するに原因が超常現象なのか判断しなければならないという事だ。うーん……難しそう。


「神成さん、実は今日誘ったのは、あなたが相棒として付く捜査官のことなの……」

「タチアナ・バリアント捜査官のことですか? 少し接しにくい方ですね」

「あのコが他人に対して冷淡なのは理由があるの[r]決して悪いコではないから嫌わないでね」

「はあ……」

 タチアナ捜査官と親しいのかヘルミナさんはフォローするような言い方だ。

「タチアナ・バリアントは実績のある優秀な捜査官よ。炎系の魔術が一番得意ね。攻撃力だけならユースティティア・デウスでも随一かもしれない」

「そんなにすごい捜査官なんですか?」

「まあね・でもそんな彼女にも苦手な事があって……」

 聞いているとスーパーエリート捜査官っぽいけど、そんな人にも弱点があるのだろうか?

 僕は気に 暗所恐怖症なの」

「暗所恐怖症? えーと、暗闇が怖いってことですか?」

「そうよ。タチアナは、とても暗闇を恐れているわ。普通の人ならどうってこともないような灯りのない部屋も彼女には恐ろしい場所なの」

 意外な欠点だった。普段の生活にも支障がでそうな気がする。それを思うと少し気の毒になる。

「子供の頃に体験が何か恐ろしい事が影響しているらしいけど……人に対しての冷淡な態度にも関係あるかもしれないわね。決して悪い人間ではないのだけど、本当に信用している人間にしか心を開かない。あなたにも心を開いてくれるといいのだけれど……」

 特別な人だというのはわかった。タチアナ捜査官には接し方を考えた方がいいかもしれないと思った。

 その後、局長Mの事や扱う事件のことやらを聞いていたが、時間はあっという間に経ってしまう。


「あ、もう時間が遅いわね。明日も仕事だし今日はこのくらいにしておきましょうか」

「ええ、そうですね」

 明日は初仕事だし、アルコールは抜いておきたい。程々にして正解だ。ヘルミナさんとはもう少し話していたかったけどしかたがない。

「話せてよかったわ。また飲みましょうね」


  *  *  *  *  *


 ヘルミナさんと別れ、僕は、そのまま部屋に戻った。

 同じ建物の中にバーがあるのはいいな、と思いながら部屋の鍵を開ける。

 だが部屋に入った途端、おかしな気配を感じた。

 部屋の中を見渡したが、特に変化はないが、なんだろう? この違和感は…・・・・そういえば、昼間、妙な感じがしてたのを思い出した。

 その時、開けっ放しだったドアが突然、勝手に閉まる。

 え? なんで? 風? いやいや。風なんかあるわけない・うわ、なんだか嫌な予感がしてきたぞ!

 僕の乏しい霊感がそう告げている!

「誰かいるのか?」

 思わず声をかけてみた。返事があったら嫌だがついて言ってしまった。

 それのせいか、なにかがぶつかるような音がする、次の瞬間、目の前に青白い白い影が床から浮き上がってきた!

「まじか!」

 青白い影は僕を見下ろすくらいの高さまで浮き上がる。

「ひいいいいいいい!」

 恐怖でいたたまれなくなり、部屋から逃げ出すと思い切り扉を閉める。扉を閉めた音が廊下に響いた。

 あれは、なんなんだ?


「なんだよ。うるさいぞ」

 僕の騒ぎが迷惑だったのか隣の部屋の住人が顔を出した。

「す、すみません。なんか部屋におかしなものが……あれ?」

「ん? 君は……」

 お互い顔を見合わせて固まる。

 隣の住人は、タチアナ・バリアント捜査官だったのだ。

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