バディとなる捜査官の紹介を済ませた後、ヘルミナさんに新しい部屋を案内された。
扉を開けると中はアンティーク風の豪華な部屋だった。
「きれいでしょ?」
「綺麗というか……いいんですか?」
「内装が気に入らなければ申請を出してくれれば家具を入れ替えるわ」
「いや、とりあえず現状維持で使いますよ」
ヘルミナさんからの勧めでマニック・カースル城の部屋を借りる事になったのだが想像していたより、ずっと豪華な部屋で驚いた。ホテルに改修したらそのまま使えそうに思える。
「ところで神成さん。ここには食事もお酒を飲める場所もあるの。今夜、一緒に飲みませんか?」
「ヘルミナさん? え? 飲まないかって? は、はい! もちろんです」
「では今夜ね」
そう言って部屋を出るヘルミナさんを見送ると改めて中を見渡した。
豪華なベッドに机。敷かれたカーペットの柄や壁も古いが高級感がある。あるんだが。少し気になる事があった。それは誰もいないはずなのにわずかに気配を感じるのだ。
弱い霊感が感じるものなのか、前の住人の何かが残っているかよくわからないが、それが少し気になった。
「まあ、いいか」
考えてもしかたがないので、夜まで荷物の移動をしていることにした。
* * * * *
そして夜になり、カースル城に設けられたバーに向かった。
約束の時間より早くバーに着くと席には誰もいない。
(少し早く来すぎたかな……まあいいか、先に何か飲んでようかな)
そうしてると見知らぬ男が近づいてくる。
「やあ君、日本人かい?」
「はあ、そうですが……こちらの所属になりました神成朝斗(かみなり あさと)と言います」
「ということはもしかしたら、君が噂の新人なのかな?」
「すみません。ここのところ、そればかり言われてるんですが、一体何のことでしょうか?」
「もしかしたら、何も聞かされていないのかい?」
「明日から捜査官に付く話は、今日受けたばかりなんですけど、それ以外は特になにも……」
「そうか、それは気の毒……ああ、まずは、自己紹介させてくれ。僕は、ワーロック・A・ホークスだ。君とは管轄が違うが、僕も捜査官だ」
そう言ってホークスの差し出す手を握り握手を交わす。
「僕は悪魔退治の担当さ。エクソシストみたいなものかな」
「悪魔……ですか?」
「そうだよ。はあ……」
ホークスは急にため息をつく。
「ど、どうしました?」
「いや、悪魔って狡猾な連中だから相手にしてると神経をすり減らす仕事なんだよ。なにしろ悪魔に取り憑かれた奴ら……いや犠牲者たちは、いろいろ吐きまくるし、罵詈雑言を図れまくるし、すごく汚いし……あ゙あ゙あ゙ー思い出すだけでもムカつく!!!」
すごい形相のホークスさんに引いてしまう。
「あ、でもいろいろ変化があって刺激があるよ。君もウチに来るかい?」
絶対嫌だったので丁重に断った。
「ところで俺の噂って何なんですか? あまり良いことでない気はするんですけど……」
「いや、失敬。噂されているのは、君自身が、どうのこうのというわけではないんだ。君のパートナーがあの"黒髪の魔女"ってことなんだよ」
「黒髪の魔女? パートナー? もしかしてそれは、タチアナ・バリアント捜査官ってことですか?」
「黒髪の魔女ことタチアナ・ヴァリアントは、相棒をつくらないことで有名でね」
「そういえば、俺、何か嫌がられてる感じはしてたけど……」
「そうだろうね」
「でもパートナーを組みたがらない人が久しぶりにパートナーを組んだだけの話でしょ? そんなに話題になることなんですかね?」
ホークスは肩をすくめる。
「おいおい、誰ともパートナーを組まなかったヤツの新パートナーってだけで噂になるとでも? 実は"黒髪の魔女"とコンビを組んだ相手は、全員、再起不能か病院送りになっているんだよ」
「えっ?(それは初耳なんだが……)」
「君も気の毒に」
また言われた。
「で、でも何も起こらないかもしれないじゃないですか!」
「今はそうかもしれないが、それも時間の問題かな」
「とにかくここの捜査官たちは、君がどのくらい無事でいられるか賭けてるんだよ。ちなみに一番多く賭けられているのは保って三日間だ。言っておくけど僕は、そんな不謹慎なゲームには参加していないけどね」
「ちょっと聞きたいんですけど」
「なんだい?」
「その賭け、俺は最高で何日間、無事でいられるってことになっています?」
「えーと……たしか、10日間が最高だったかな」
「それ以上の日数に賭ける人はいそうですか?」
「今まで保った"黒髪の魔女"の相棒は最高は20日だったから、そうだな……[r]それに近い日数に賭けてくる奴は出てくるかもしれないな」
「それなら一ヶ月に賭けるのは……」
「ないない。だって今まで保った最高日数が20日なんだぜ? そこから10日も延ばすなんてないな」
「じゃあ、もし、そこに賭けて当たったら総取りってことですよね」
「うーん、そういう事になるかな。いまのところ」
「本来、警官が賭博行為っていうも気が引けるんだけど……」
僕は財布から紙幣を取り出すとホークスさんに差し出した。
「タチアナ・バリアント捜査官の新しい相棒は必ず一ヶ月保つ! 100ポンド賭けるから胴元に渡しといてください!」
「な、なんと!?」
ホークスさんがあからさまに驚いた表情をする。
「はははは! 気に入ったよ! わかった! この金は預かったよ。責任持って胴元に賭けておく! こんなくだらない賭けには乗らないつもりだけど気が変わった。僕も君に乘ることにするよ。もちろん一ヶ月無事だって方にね!」
ホークスさんはそう言いながら100ポンド札を受け取ると僕の肩を嬉しそう叩く。
「噂の新人君に会えてよかったよ。それじゃ僕はもう行くよ。がんばってくれたまえ!」