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第4話 魔術捜査官タチアナ・バリアント

 その後、受け取った支給装備品を抱えてエレベーター前で待っていると、用事を終えたヘルミナが戻ってきた。

「おまたせしました、神成さん。ごめんなさい。なんとかなりました?」

「はい、一応」

「……ん?」

 何かに気がついたヘルミナさんが僕の顔を覗き込む。

「あの……何かありました? なんだかアゴのあたりが赤くなってるように見えるんですけど」

「ああ、これですか。ちょっと転んでしまいまして……あはは」

「まあ、大丈夫ですか?」

「平気です、こう見えて意外と頑丈なんで」

「痛みが出るようでしたら声をかけてくださいね。薬も用意できますし医務室もありますから」

「はい、ありがとうございます!」

「ところで、神成さんは今どこで寝泊まりしているのですか?」

「この城にある来客用の宿泊室をお借りしていますが、研修が終わったらどこか近くの安アパートを見つけて移るつもりです」

「そうなのですか……あの、よろしかったら、この城の部屋に移りませんか? 捜査官として働くならその方がよいと思います」

「えっ? ここに空いている部屋なんてあるんですか?」

「気がついていると思うけど、ここは貴族が所有していた城を改装しています。オフィスや尋問室、資料室、必要な施設に使っても部屋は、百室近く余っていますよ。利用している職員や捜査官も多いんです。この私も使っているひとりです」

「えっ? ヘルミナさんもこの城で暮らしているってことですか?」

「意外と住心地が良いんですよ。ビュッフェスタイルの食堂やカフェもあるし、元々が貴族の城だから部屋も豪華。もちろんWi-Fiも完備」

(へルミナさんと同じ屋根の下かぁ……悪くないなぁ)

「どうでしょうか?」

「は、はい! ぜひ使わせてください!」

「じゃあ、後で、そちらも案内しますね」

「できれば、ヘルミナさんの部屋に近い部屋がいいなぁ」

「は?」

「あ、いや、なんでも……しかし、ここにはいろんな人がいますね。出会った事がないタイプも多いので刺激になります」

「大丈夫、神成さんならすぐに馴染みますよ」

「だって、神成さんはこの組織にユースティティア・デウスピッタリな人なんですもの」

 そう言って悪戯っぽく笑いかけるヘルミナさん。なにか意味でもあるんだろうか?

「じゃあ、Mのオフィスに戻りましょうか。神成さんのお部屋には、その後で案内しますね」


 再びMのオフィスに戻ると誰かが背を向けて立っていた。

「ああ、戻ってきたね。神成君。そこにいるのが君とバディを組むエージェントです」

 立っていた誰かが振り返り神成を見る。

「あ……」

 目の前のエージェントの姿を見て唖然とした。それは、地下の通路で顔面に一撃を入れてきた人物だったのだ。

「お前は……?」

 相手も同じだったようだ。僕の顔を見て驚く。

「おや? 二人共もう顔を会わせてたのですか?」

 何も知らないMがそう声をかけた。

「えーと、いや、そういうわけではないんですが……ちょっと見かけたというかなんというか……」

「そうですか。神成君、彼女はエージェントのタチアナ・バリアントです。君たちにはコンビを組んでもらいます」

 バリアント捜査官の顔が固まっている。いかにも知らなかったといった感じだ。

(どうしよう……気まずい)

「よ、よろしくお願いします」

 返事はしてもらえなかった。うわ……気まずさが増していく!

 何かを察したのかMが慌てて口を挟んだ。

「と、とにかく仲良くやってくれたまえ。今かかってる案件はそのまま継続。今後は二人で捜査を進めもらいましょうか」

「失礼ですがエム。ボクは誰ともバディを組みません。その理由だってあなたも知って……」

「わかっている! わかってるけど、今度の彼は大丈夫! ちゃんと人選したし。すぐには壊れないから」

 え? 今、”壊れない”とかって言った? それってどーゆー意味?

「ですが……」

「上司の言うことを聞きなさい! それ以上拒否するなら命令不服従で処分しますよ!」

 タチアナ・バリアント捜査官は、これみよがしにため息をついた。

「わかりました……ですが、ボクが危険と判断したらバディは即解消ということでよろしいですか? それは譲れませんからね」

「うーん、相変わらず頑固ですね。仕方がない。それは譲歩しましょうか。それでは、”善は急げ”ということで、明日から今あたってる事件に連れていってください」

「明日から? さきほど彼のファイルに目を通しました。彼はここの捜査対象についてまだ理解していないのでは?」

「それは、あなたがレクチャーしてください」

「な……っ!」

「いいじゃないですか。今後の事を考えても後輩への指導は良い経験になるはずです」

 横にいたヘルミナがまあまあとタチアナの肩をポンポンと叩く。

「私も協力するからがんばろ?」

「ん……ヘルミナが協力してくれるなら……」

 タチアナは再び。これみよがしに大きなため息をつく。

「わかりましたよ。でも、最低限のことは彼に教えておいてくださいね! でなければ話にもならない」

「OK。それは私にまかせて」

 そう言って悪戯っぽい笑顔を向けるヘルミナさん。

 どうもこの状況を楽しんでいるように見えるのは気の所為だろうか……?

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