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第5話 トラップからのハニートラップ

 イーリスとBarで飲んだ翌朝、オレは、アルコールが抜けきってない重い頭を持ち上げてベッドから身を起こした。


「もう九時か……」


 スマホを見て時刻を確認する。そして、昨晩のことを思い出していた。


 『私はあなたを意識しています』『あなたといることが楽しいんです』


 昨日、イーリスがそんなことを言っていた気がする。それに、ほんのり頬が赤かったような気もする。


 いや……いやいや! 違う! それは勘違いだ!

 セリフについてはそうだったかもしれんが、頬が赤いとかいうのは勘違い! あいつはいつも通り無表情だった! これは童貞特有の都合の良い解釈というやつだ!


 ちょっとそれらしいセリフを言われたからって勘違いするなよ、オレ!


「ふぅ……あぶないあぶない……落ち着いたぜ……このままだと、『あれ? こいつ、オレのこと好きなんじゃね?』って勘違いする痛い奴になるところだった。オレくらい訓練された童貞じゃなかったら危なかったぜ……」


 独り言を呟きながら、ベッドからおりようとする。すると――


『ブー! ブー!』


「ん?」


 オートモードにしてあった危機感知スキルが頭の中で警戒音を鳴らした。


「なんだ?」


 疑問に思いながら周りを見渡す。オレの部屋だ。誰もいない。築20年の1LDK、どこからどう見ても、普通の部屋だった。


「なんで危機感知が反応してんだ?」


 もう一度確認する。すると、オレの足元に、見たことがある魔法陣が光り輝いているのを発見した。


「……」


 白く光っていて、六芒星のようなマークが複雑に合わさってゆっくり回転している。

 この魔法陣は、なにか。うむ。イーリスの転移魔法陣だった。


「なんだ? なにかの嫌がらせか?」


 昨晩、あいつに失礼なことでも言っただろうか? と首を傾げながらベッドからおりる。当然だが、転移魔法陣はそっと避けておく。もし踏んだらどこに飛ばされるかわかったもんじゃない。


「んー? イーリスのこと、怒らせるようなことしたかなー?」


 洗面台にいき、顔を洗い、歯を磨きながら、もう一度昨日のことを思い出した。

 イーリスから『あなたは私を意識してくれてますか?』って聞かれたあたりのことだ。


「オレ、なんて答えたっけ……」


 『はい?』とか、『なんて?』みたいな朴念仁的返答をした気がする。それで怒らせたんだろうか?


「んー……月曜にでも謝るか……」


 だけど、なんて謝ればいいかはよくわからない。


 頭をかきながらトイレに向かい、扉を開け、一歩踏み出そうとして、すぐに身体を硬直させた。


「おわ!?」


 ギリギリだった。右足が空中に浮いている。オレは両手でドア枠を持って、ギリギリそれを踏まないように踏ん張ることができた。イーリスの転移魔法陣、再びの登場である。


「だから怖いよ! これ、どこに飛ばされるんだよ!」


 そっと、右足を魔法陣の外に着地させる。


「ふぅ……よくわからんが、やっぱ謝った方がよさそうだな……は?」


 尿意が失われて、リビングに戻ろうとしたら、目を疑うような光景が広がっていた。オレの部屋一面が転移魔法陣で埋め尽くされているのだ。床だけでなく、壁や天井まで、所狭しと。


「……ふ、ふふ、ふざけんな! さすがにやりすぎだろ! イーリス!」


 振り返ると、廊下にもそこら中に転移魔法陣が描かれていた。

 なんだこれ! 時限式で発動するようにしてたのか? くそ!


 オレは、急速に回り出した頭に怒りを浮かべ、すぐに浮遊術で身体を浮かして玄関から飛び出した。

 そして、その勢いに任せて、隣の305号室のチャイムを鳴らす。


「ピンポーン! ピンポンピンポンピンポン!! おい! イーリス! 起きてんだろ! 出てこい!」


「はーい」


 あいつののんびりした声が聞こえてくる。

 ガチャ。


「おまえ! ふざけ! ……るな?」


「あ、おはようございます。勇者ダン」


「……」


 オレの目の前には、湯上がりなのか、ほかほかと湯気をまとった美少女が立っていた。濡れた髪をタオルで拭きながら、パジャマらしきシャツを上だけ羽織り、大きく胸元が開いて、美しい双丘を見せつけてくる。下は……履いてない。白いレースのおパンツが丸見えだった。


「おまっ!? おまおま! おまえ!」


「はい、なんでしょう?」


「なんでしょうじゃない! そんな恰好で出てくるんじゃありません!」


 顔が熱くなる。でも、素晴らしい光景から目が離せない。


「勇者ダンが出てこいって言ったんじゃないですか。なにをそんなに怒ってるのですか? とりあえず、中にどうぞ」


「は? へ?」


 グイッと引っ張られて室内に招き入れられた。引き寄せられ、目の前でブルンとおぱーいが揺れる。す、すんごい……


「今着替えますので、少しお待ちください」


「は、はい……」


 くるりと踵を返し、室内に戻っていくあいつのことを、オレはジッと見つめることしかできなかった。突然のことだったからで、ビックリしていたからだ。

 決して、純白のおパンツに目を奪われていたからじゃない。


 絶対に違う。

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