目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第8話 いつもの日常へ

 イーリスと一緒に電車に乗り、他愛もない話をしながら会社の最寄駅まで到着した。駅から歩いて会社へと向かう。


「シャーロットは元気でしょうか」


「シャーロット? んー、ベルクラフトの時間軸だと、もう500年くらい前のことだよな? あいつって人族だったと思うんだが?」


 つまり、かつての仲間たちは、もう天寿を全うしたはずだ。少ししんみりしてしまう。


「そうですね。そうでした。きっと、彼女は幸せな生涯を遂げたでしょう。帰り際に祝福しておきましたし」


「祝福? へー、そんなことしてたんだ」


「ええ、勇者パーティの皆さんには、必ず祝福を与えるようにしています」


「ほほう? 初耳だ。おまえ、意外と仲間思いだったんだな」


「意外とってなんですか?」


「いや、なんというか、人間に興味なさそうな顔してるから」


「そんなことありません。興味津々です」


「じゃあ、受付の同僚の名前は?」


「な、なる……なるなるさんです」


「違います。成瀬さんです」


「そうでしたか」


「やっぱ興味ないじゃん」


「そんなことありません。少なくともあなたには、興味があります。興味がありすぎて天界から追いかけて来ました」


「……おま……またそんなこと言って……」


 何度目かのドギマギを味わいながら、本社ビルに足を踏み入れる。イーリスに注意しようと、足を止めそうになっていると――


「おい! 天城! すぐ出るぞ! ついて来い!」


 上司様がエレベーターホールからズカズカと早足で歩いてきた。目の前まで来て、イーリスのことをチラリと見てからオレを睨みつける。


「女連れとは良いご身分だな! 役立たずの分際で!」


「あ、いや、こいつは……いえ! なんでしょうか、上司様! お供致します!」


「良いからついて来い! ノロマが!」


「イエッサー!」


 よし! 今週も普通のサラリーマンライフが始まった! 最高かよ! ウキウキしかないぜ!


 こうしてオレはキレてる上司様の後を追ったのだった。イーリスの思わせぶりなセリフを忘れることにして。


「……」


 残された私は、少しムッとした思いを感じながら、彼が出陣していく姿を見送っていました。なぜムッしているのでしょう。そうか。これが嫉妬というものなのですね。勇者ダンとの時間を邪魔されて、私は――


「あちゃー……天城さん、大変そうだねー」


「あ、成瀬さん。おはようございます」


「え? わー! イーリスちゃんから名前呼んでもらったのはじめてかも! 嬉しいな!」


「そうですか」


「ねぇねぇ! 先週はあのオシャレバー行ったの!? 天城さんと!」


「ええ、行きました」


「ホント!? 詳しく話聞かせてほしいな!」


「わかりました。成瀬さんのアドバイスをもう一度聞きたかったので、お話します」


「楽しみ! あ! 引き留めてごめんね! 着替えてきて!」


「わかりました」


 私は、勇者ダンの様子が気になりましたが、とりあえずいつもの服に着替えることにします。

 勇者ダンは何時に帰ってくるでしょうか。待ち遠しいです。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?