イーリスと一緒に電車に乗り、他愛もない話をしながら会社の最寄駅まで到着した。駅から歩いて会社へと向かう。
「シャーロットは元気でしょうか」
「シャーロット? んー、ベルクラフトの時間軸だと、もう500年くらい前のことだよな? あいつって人族だったと思うんだが?」
つまり、かつての仲間たちは、もう天寿を全うしたはずだ。少ししんみりしてしまう。
「そうですね。そうでした。きっと、彼女は幸せな生涯を遂げたでしょう。帰り際に祝福しておきましたし」
「祝福? へー、そんなことしてたんだ」
「ええ、勇者パーティの皆さんには、必ず祝福を与えるようにしています」
「ほほう? 初耳だ。おまえ、意外と仲間思いだったんだな」
「意外とってなんですか?」
「いや、なんというか、人間に興味なさそうな顔してるから」
「そんなことありません。興味津々です」
「じゃあ、受付の同僚の名前は?」
「な、なる……なるなるさんです」
「違います。成瀬さんです」
「そうでしたか」
「やっぱ興味ないじゃん」
「そんなことありません。少なくともあなたには、興味があります。興味がありすぎて天界から追いかけて来ました」
「……おま……またそんなこと言って……」
何度目かのドギマギを味わいながら、本社ビルに足を踏み入れる。イーリスに注意しようと、足を止めそうになっていると――
「おい! 天城! すぐ出るぞ! ついて来い!」
上司様がエレベーターホールからズカズカと早足で歩いてきた。目の前まで来て、イーリスのことをチラリと見てからオレを睨みつける。
「女連れとは良いご身分だな! 役立たずの分際で!」
「あ、いや、こいつは……いえ! なんでしょうか、上司様! お供致します!」
「良いからついて来い! ノロマが!」
「イエッサー!」
よし! 今週も普通のサラリーマンライフが始まった! 最高かよ! ウキウキしかないぜ!
こうしてオレはキレてる上司様の後を追ったのだった。イーリスの思わせぶりなセリフを忘れることにして。
「……」
残された私は、少しムッとした思いを感じながら、彼が出陣していく姿を見送っていました。なぜムッしているのでしょう。そうか。これが嫉妬というものなのですね。勇者ダンとの時間を邪魔されて、私は――
「あちゃー……天城さん、大変そうだねー」
「あ、成瀬さん。おはようございます」
「え? わー! イーリスちゃんから名前呼んでもらったのはじめてかも! 嬉しいな!」
「そうですか」
「ねぇねぇ! 先週はあのオシャレバー行ったの!? 天城さんと!」
「ええ、行きました」
「ホント!? 詳しく話聞かせてほしいな!」
「わかりました。成瀬さんのアドバイスをもう一度聞きたかったので、お話します」
「楽しみ! あ! 引き留めてごめんね! 着替えてきて!」
「わかりました」
私は、勇者ダンの様子が気になりましたが、とりあえずいつもの服に着替えることにします。
勇者ダンは何時に帰ってくるでしょうか。待ち遠しいです。