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第10話 ナイスアシスト

 翌朝、玄関を出て左を見ると、イーリスのやつが自分の玄関の前で待ち構えていた。オレのことを見つけると、いつもの調子で「おはようございます。勇者ダン」と声をかけてくる。


 オレはというと、辛うじて挨拶は返したのだが、昨日のプロポーズまがいの出来事が気まずくって、上手く喋れずにいた。

 そのまま、会話も弾まずに本社ビルまでやってくるオレたち。そこで受付嬢の成瀬さんに呼び止められた。


「はぁぁぁ!」


 クソデカため息である。


「昨日の今日で! あんなことがあったのに! 普通に、二人で出社してきて! はぁぁぁ!」


 二度目のため息だ。しかもわかりやすい説明ありがとう。


「イーリスちゃん! 天城さん! あなたたち、ちゃんとデートしてきなさい! はいこれ! チケット!」


 こうして、成瀬さんのゴリ押しによって、週末に遊園地デートが行われることが決定してしまう。


 気まず過ぎる。行きたくない。

 しかし、断ろうものなら、成瀬さんに殺されそうだったので、口をつぐんだ。


 憂鬱だ……こんな状況でイーリスとデートだなんて……何を話せばいいんだ……



 週末、オレは着なれない他所行きの服を着て、準備を整えていた。春らしい明るい色のパンツにTシャツ、グレーのジャケットを羽織って鏡の前に立つ。


「で、ででで、デートってこんな服装でイイんやんけ?」


 33歳、独身である。そんで童貞である。デートの服装とかよくわからんのである。助けて。


「いや、ちょっといい服屋で店員さんに選んでもらったんだ。大丈夫なはずだ……よし! 行くか!」


 緊張を押し殺し、気合を入れてから玄関に向かった。靴も店員さんに選んでもらったので大丈夫なはずだ。


 もう一度深呼吸してから扉を開け、横を見ると、いつも出社するときと同じように、自分の部屋の玄関の前でイーリスが待っていた。

 でも、いつものスーツとは違う、オシャレさんがそこにはいた。薄い黄色のロングスカートに白のブラウス、茶色のブーツを履いて、革の小さいバッグを持って立っていたのである。


 ど、どなたでしょうか……


「あ、おはようございます。勇者ダン」


 言いながらこちらを向く。花柄のスカートをなびかせて、髪を片手で触って整えていた。今日も美しい金髪だ。その髪も、いつものように無造作に垂らしているわけでなく、後ろ側を編み込んでまとめている。なんというか、いいところのお嬢様のような雰囲気だった。


 うん……まぁ……綺麗だ……そりゃあ、女神様だし……


「……」


「どうかしましたか?」


 近づいてきて顔を覗き込まれてしまった。近くてドキッとする。


「いやべつに!」


「そうですか? それにしても勇者ダン、今日はオシャレさんですね。スーツ以外は新鮮です」


「そ、そう? ありがと……あっ! おまえも、もも! オシャレだと! 思う!よ!? イイ感じ!」


 グッと親指を立ててみる。


「そうですか? ありがとうございます。全部、成瀬さんが選んでくれました。髪もさっきセットしてくれたんです」


「シー! イーリスちゃん! シーだよ!」


 イーリスの部屋の玄関から見慣れた顔がのぞいていた。まさか休日まで一緒に過ごす仲になっていたとは。


「そ、そうなんだ……いい人だね……」


「はい、とってもいい人です。お礼に祝福を授けた方がいいでしょうか?」


「は、ははは……それはどうだろう? 成瀬さんはイーリスのこと人間だと思ってるはずだけど……」


 コソっと耳打ちしておく。やつはまだこちらを覗き見ていた。


「たしかに。そうだとすると、どうお礼をすれば……困りました……」


 人差し指で頬を触り、悩むようなポーズをするイーリス。しかしその顔は無表情であった。


「ま、まぁ、友達同士なんだし、今度お茶でも奢ればいいんじゃない?」


「そうですか? わかりました。そうしようと思います」


「おう。じゃ、じゃあ、行こっか?」


「はい、遊園地デート、楽しみです」


 デート……デートか……イーリスの口から言われると緊張が増す。

 いや、落ち着けオレ、こんな緊張、魔王のいる部屋の扉を開けるのより全然マシだ。


 マシなはずだ……


 ホントか?


 そんな自問自答をしながら、イーリスを連れて遊園地へと向かうことにした。

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