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第11話 女神と遊園地デート

 東京っぽい雰囲気の千葉にある某遊園地、通称【夢の国】。

 オレとイーリスは、成瀬さんにもらったチケットを使って、入場ゲートを通過した。土曜日なだけあって、結構な人の数だ。


「混んでるなー」


「そうですね。たくさん繁栄してて良いことです」


「なにその神視点」


「女神ですので」


「なにそれ女神ジョーク?」


「何を言ってるのですか?」


「いやべつに……ははは……」


 緊張のためか、いつも以上に変なことを言ってる気がする。落ち着かねば。

 ほら、イーリスだって不思議そうな顔をしているじゃないか……いや、いつも通り無表情だけど……


「とりあえず、適当にアトラクションに並ぶかー」


「いえ、まずはチュロスを食べます」


「ほう?」


「成瀬さんにどう回ればいいか聞いてきたんです。今日はそのプランで遊園地デートします」


「ほほう?」


「えーっと、あっちだと思います」


 スマホを見ながら、ビシッと指を刺すイーリス。


 本当か? と思って、彼女のスマホを覗き込むと、今日も彼女の手の中のスマホは逆さまであった。

 自信ありげな雰囲気と相まって、なかなかに痛々しい。


「逆ですよ、イーリスさん、たぶんあっちですよ」


 ということで、おばあちゃんに接する心持ちで、優しくアドバイスしてあげることにした。

 指摘されたイーリスはというと、キョトンとしながら首を傾げてくる。


「そうですか? じゃあ、案内お願いします」


「へいへい」


 スマホを渡されたので素直に受け取ってエスコートさせていただくことにした。


 成瀬さんに考えてもらったデートプランというのがどんなものか気になるが、これ以上こいつの口から『デート』という単語を聞くと恥ずかしいので黙っておく。


 少し歩いて、オススメだというチュロスのお店にやってきた。キッチンカーのような見た目で、ピンクの鮮やかなお店だった。


「二本でいいのか?」


「いえ、一本で」


「わかった」


 イーリスの要望に特に疑問も感じず、一本だけチュロスを購入する。チョコ味をリクエストされたので、その通りにする。


「はい、どうぞ」


 受け取ったチュロスをイーリスに手渡そうとする。すると、


「はむっ」


「おお?」


 オレの手元からイーリスが直接チュロスにかじりついた。片手で髪の毛を抑える仕草が色っぽい。


「もぐもぐ……美味しいです」


「そ、それは良かった……」


 至近距離でもぐもぐされてドキドキさせられる。


「勇者ダンもどうぞ」


「へ?」


 どうぞ、とは? この、キミが口をつけたチュロスを?


「私が食べさせてあげます」


「あ、あの……」


 抵抗虚しく、さっとチュロスを奪われてしまった。そして顔の前に突きつけられる。


「さぁどうぞ」


 じっと見つめられる。なんだか、圧を感じた。食べない、という選択肢はなさそうだ。


「い、いただきます……」


 照れくさいが、おずおずと食べさせてもらった。イーリスはずっとオレのことを見ている。いつもの無表情な顔で。


「もぐもぐ……おいちいです……」


 緊張で、正直、味はよくわからなかった。


「そうですか……もぐもぐ」


 オレが口を離したら、イーリスがすぐに口を付ける。


「これが間接キスというものですか。興味深いです」


「……」


 独り言だと思いたい。


「勇者ダンはどう思いましたか?」


 独り言じゃなかった。


「ど、どうとは?」


「ドキドキしましたか?」


「ま、まぁ……」


「そうですか。じゃあ、次に行きましょう。あ、残りはどうぞ」


「あ、うん……」


 残ったチュロスを手渡されて、次の目的地へと足を運ぶ。今日はイーリスに振り回されそうな予感がした。


 成瀬さん……キミはこいつに一体どんなアドバイスをしたんだ……すでに結構……いや、オレはまだまだ冷静だ!


 冷静になるように脳内で言い聞かせながらやってきたのは、シューティングゲームが一体になってるアトラクションだった。

 専用の乗り物に乗って、移動しながら敵を撃ってポイントを稼ぐ、そんな仕組みらしい。


「勇者ダン、勇者としての実力を見せてください」


「おう! 任せろ!」


 並びながらゲームの説明を確認し、オレは腕を回す。こういうのは得意だ。ある異世界では、飛び道具主体の武器で戦ったこともある。オレの勇者力を見せてしんぜよう!


 そしてアトラクションが始まる。

 オレは惜しげもなくスキルを使いまくった。千里眼に未来予測、反射神経強化だ。結果、オレは今月の最高得点者に輝いた。


「どんなもんだ!」


「パチパチパチパチ。すごいです。すばらしいです」


「そうだろう、そうだろう!」


「カッコいいです。惚れ直しました」


「そうだろうそうだ! ……惚れ直した?」


「ふむ。やはり、成瀬さんの言う通り、男はこういうゲームで褒めておけば喜ぶ、というのは正しいようですね。勇者ダンはご満悦のようです」


「……」


 そういうことを言っちゃあ、テンション下がっちゃうのよ? イーリスさん? 

 そう思いながら、どこか満足気なイーリスを見て可笑しくなる。気づかれないように微笑んで、何もツッコまないことを選択した。


 こうして、イーリスとの遊園地デートは、懸念していたほど気まずいものにはならなかった。

 むしろ楽しい。うん、すごく楽しむことができた。


 陽も落ちて暗くなり、パレードを見てから、帰るためにゲートに向かおうとする。


「あ、勇者ダン、最後にお城に行きたいです」


「うん、いいけど」


 イーリスの要望通り、この遊園地のトレードマークでもあるお城の前にやってきた。

 ライティングされ、夜なのにお城全体を見ることができる。お城の前の広場もとても綺麗だ。


 二人して、お城の方を眺める。


「あのお城を見てると、三回目の勇者ダンとの冒険を思い出します」


「え? ああ、言われてみればたしかに。あのときの魔王城は光ってたよな。クリスタルでできてたから」


「はい。あのときは、助けていただき、ありがとうございました」


「そんなこともあったなー。おまえは自分は死ぬとか言ってたけどな」


「はい、それが最善だと思ったので」


 二人でテーマパークのお城を眺めながら、あのときの冒険のことを思い出し始めた。

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