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第2章 霧刃の金神姫

第20話 到着早々

 東京駅から新幹線に乗ったオレとイーリスと成瀬さんは、二時間ちょっとで京都駅に到着した。


「帰ってきたー! わが故郷!」


 新幹線を降りたところで成瀬さんが両手をあげて伸びをする。


「そういえば、ここは成瀬さんの故郷でしたね」


「そうそう! 久しぶりに帰ってきてテンションあがっちゃった♪ まぁ、一年ぶりくらいだけどね?」


「……」


 テンションが高い成瀬さんと無表情のイーリス。すごい対極的な二人だった。


「あぁん! イーリスちゃん! もっと私に興味持ってよ!」


「……」


 成瀬さんが唐突にイーリスに抱きつき、頬に頬ずりする。イーリスはなおも無表情だ。


「でも! そんなイーリスちゃんも可愛くて好き!」


「ありがとうございます。私も成瀬さんには感謝しています。成瀬さんのおかげで勇者ダンを落とせました」


「落とせたって、おまえ……」


「どういたしまして! 個人的にはイーリスちゃんに相応しい男かは疑問だけど! さぁ、今日は一日空いてるし京都観光しましょ! 案内するわ!」


 なんか気になることを言われたけど、まぁ今はいいだろう。


「いやいや、成瀬さん、オレたち不動産屋に鍵もらいに行かないと。夕方には引越しの荷物も届くし」


「えー!」


 事前に言っておいたのに不満そうな顔をされてしまう。


「イーリス」


「はい?」


「おまえからも説得して」


「なぜ私が?」


「おまえの言うことなら聞くだろ?」


「そうなんですか? 成瀬さん」


「なぁに! イーリスちゃん!」


「今日は観光しません」


「えー! いやいや! イーリスちゃんと遊びたい!」


「ダメでした。勇者ダン、どうぞ」


「おいおい……」


 オレは『イヤイヤ』言い続ける成瀬さんをなだめようと、妥協案を考える。


 そうしていると、ふと、成瀬さんの後ろにいる、ある男の様子が気になった。パーカーのフードを深く被り、両手をお腹のポケットに入れ、ふらふらしている。


 不自然だ。でも、オレには、その不自然な動きよりも、気になることがあった。

 殺気だ。


「……あぁぁ……ああ! あ〝あ〝あ〝ー!!」


 突然、パーカーの男が騒ぎ出し、喉をかきむしった。

 周囲の人が何事かと驚き、男から距離を取る。


「え? なになに?」


 成瀬さんもビクッとして振り返る。なおも男は、顔を上げて叫び続けていた。


「あ〝あ〝あ〝ーー!! ……」


 そして、ピタリと叫ぶのをやめた後、お腹のポケットから包丁を取り出した。今度は、「ふひひ……」と口角を上げて笑い出す。


「ちょ……あれ、やばいんじゃ……」


 成瀬さんが怯え、一歩下がったとき、男と目があった。


「ひっ……」


「……あ〝あ〝ー! ごろずー!!」


 突如、パーカー男が前傾姿勢でこちらに突撃してきた。


「きゃ! きゃ――」


「あ、下手に動かないで」


 成瀬さんが悲鳴をあげようとしたところで、オレは肩にポンと手を置いて彼女の前に出る。


「ごろずごろずごろおー!!」


「はい、おつかれ」


 突撃してくる男の包丁の刃を上からつまみ、ひょいと取り上げた。それと同時に首を掴み、地面に叩きつける。


「がっ!? ご! ごろず!!」


「んー? まぁ、ねんねしてなよ」


 ズビシ! うるさいので、手刀で首を撫でることにした。


「うべっ!? ……」


 シーン……男は物言わぬ屍と――いや、気絶した。


「お、おお! あんたやるな!」


「やば! あの人カッコよくない!?」


「すごいすごい! プロかな!」


「なんのプロだよ!」


「ほら! 格闘技とかの!」


 ちょっと不審者を取り押さえただけなのに、周囲の人たちが嬉しそうに騒ぎ出してしまった。まぁ、これもよく見る光景なので慣れてしまった感はある。なので、愛想笑いしながらペコペコと頭を下げておいた。


「え? え?」


 成瀬さんはビックリして腰が抜けたようだ。へたり込んでオレとパーカー男を交互に見ている。


「天城さん?」


「なにかな?」


「あなた、何者なの?」


「へ? 普通のサラリーマンだけど?」


「ふ、普通?」


 ポカン顔の成瀬さんの手をとり、起き上がらせる。


「イーリス、支えてあげて」


「はい、わかりました」


 イーリスが成瀬さんの両肩を持つ。それを見てからオレは、走ってくる駅員さんたちに向き直って事情を話すことにした。


 不審者を撃退するのは何十回目だろうか、なんなら、何百回目かもしれないな。

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