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第22話 2人目の女神

 月曜の朝、今日は新しい会社にはじめて出社する日だ。


「それでは参りましょう」


「そうだな!」


 オレとイーリスはビシッとスーツをきめて、玄関を出た。


 まずは、成瀬コーポレーションの本社ビルで中途入社の手続きだ。電車に乗って本社ビルまで向かう。ビルの中に入ると、ロビーで成瀬さんが待っていてくれた。


 「おはよー♪」と手を振る成瀬さんと合流してから受付に行き、「入社手続きに来ました」と伝える。

 会議室に通されて、色々説明され、コンプライアンス的な講義を受け、社員証と制服が入った袋を受け取った。


「では、さっそくお昼から研修に向かってください。天城さんとイーリスさんは、予定通り、こちらのファミリーレストランで研修を行っていただきます」


 渡されたプリントには、事前に聞いていたレストランの地図が載っていた。オレたちのアパートのすぐそばである。


「今回は、お嬢様も久しぶりの復帰とのことですので、同じレストランにて、店長として働いてもらうよう社長から指示を受けています。問題ないでしょうか?」


「はーい、大丈夫です」


 成瀬さんが軽く答える。『お嬢様』とか『社長』とか言われて、この人が社長令嬢だということを実感した。転職先を紹介してもらっておいてなんだが、正直、半信半疑だったのだ。


 成瀬コーポレーションは、京都に三十店舗の飲食店を持つ大企業だ。全国展開もしていて、全国で百店舗以上は運営しているらしい。そんな大企業のお嬢様が受付嬢をやっていてイーリスの同僚だったなんて疑わない方が変だと思う。


「では、説明は以上になります。お昼までまだ時間があるので、それまでは社内を見学していただいても大丈夫ですよ」


「じゃあじゃあ! 私が案内します!」


「ありがとうございます。お嬢様、よろしくお願いいたします」


「それじゃ、イーリスちゃん、天城さん、本社ビルを案内するわね!」


 成瀬さんが立ち上がったので、オレたちもそれに続く、人事部の人に頭を下げてから退室した。


「成瀬さん、本当にお嬢様だったんですね。正直、半信半疑でした」


 部屋を出た途端、イーリスが失礼なことを言い出した。ま、オレも同じこと考えてたけど。


「そうなの! 私ったらお嬢様なのよ! 見直した? 私がイーリスちゃんこと養ってあげてもいいわよ!」


 言いながらイーリスに頬擦りする成瀬さん。


「いえ、結構です。私は勇者ダンに養ってもらいます」


「……」


 そう言われると、なんだか恥ずかしい。

 へへ……任せろやい。


「むー……まぁ、天城さんもそこそこいい男だし、今は諦めるかー。とりあえず、カフェ行きましょ♪ 社員専用に作った有名店が入ってるのよ! 社員だと半額になるの!」


「へー、さすが大企業」


「でしょでしょ! こっちこっち!」


 機嫌が良さそうな成瀬さんの後を追い、三人で早めの昼食を済ませることにになった。


 昼食後、会社から出たオレたちは、また電車に乗り、研修先のレストランへと向かう。ついたのは自宅からの最寄り駅で、駅から歩いて到着したのは、よくあるファミリーレストランだった。駐車場が二十台くらいあって、一階建ての大きい建物が建っている。四十組くらいは座れそうな広さのファミレスだ。


 成瀬コーポレーションには、ファミレスから高級料亭まで様々なお店があるので、『まずはファミレスで基礎を学びましょう』ということで、オレたちは、数か月ここで働くことになっている。


「懐かしー。あ、私たちは裏から入るからね」


「了解。懐かしいってことは来たことあるんだ?」


「うん。高校生のときアルバイトしてたお店だから。はい。ここが従業員用の入口ね」


 成瀬さんの案内に従い、裏口から建物の中に入る。


「そこが休憩室ね。先に制服に着替えてて。私は今の店長さんと引き継ぎの話してくるから」


「あ、了解」


 色々と質問する間も無く、成瀬さんが厨房の方に向かってしまった。


 取り残されたオレとイーリスは、とりあえず休憩室に入ることにした。


 ガチャ。扉を開けるとそこには――


「……は?」


「え?」


 今ちょうど、上着のシャツを脱いだところの女の子がそこにいた。下は何も履いていない。いや、パンツは履いている。赤と白の縞々のおパンツを。


「……」


「……」


 無言で向き合って、固まり合うオレたち。


 目線を上に上げていくと、慎ましやかな小さいお胸を包んだ縞々のブラジャーがあって、その上についている童顔は見たことがある顔だった。


 緑色の長い髪をツインテールに纏めているので、その童顔をもっと幼く見えるように演出している。髪の毛にはところどころ赤い髪も混じっていて、緑の髪の差し色として美しかった。


 その小さい女の子は、驚きの顔から、正気を取り戻したように頬を染め、徐々に怒り顔に変わっていった。プルプルと震え出す。そして、血のように赤い目を吊り上げた。元々生意気そうな鋭い目をしてるくせに、ああやって怒っていると、もっと生意気な顔になる。それも、いつも通りだった。


「いつまで見てんのよ!! このバカー!!」


 どこから取り出したのか、思い切りナイフを投げつけられた。刃渡り12センチ、本格的なサバイバルナイフだ。


「うおっ!?」


 オレはそれを指の間で受け止める。


「なんでこんなもん持ってきてんだ!? 姫ちゃん!」


「それよりも! 早く扉をしめろー!!」


「あ、そっか。すまん」


 オレは素直に引き下がり扉を閉め、その扉にもたれかかった。


「なぜここに彼女が?」


 イーリスが首を傾げる。


「オレが聞きたいよ……」


 そう、休憩室で裸体を晒していたのは、オレたち二人に共通する知り合いだったのだ。

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