お皿を落としそうになったイーリスであったが、その後は特に失敗をするようなことはなかった。
厨房から覗き見ていたのだが、イーリスなりに一生懸命に働いていて、姫ちゃんも優しめに教えてくれていたので少しずつ仕事に慣れてきたようだ。
それと、これは喜ぶべきことなのか微妙なことなのではあるが、イーリスのお客さんからの評判は、とても好評だった。
例えば、こんな感じだ。
「お待たせしました。明太子のクリームパスタです」
「はーい! あ……ありがとうございます……」
「……なぁ、今の人……」
「うん……めっちゃ美人じゃね?」
「やばい……俺、ここ通っちゃうかも……」
特に若い男性客に人気のようだ。
聞き耳スキルを使うことで、野郎どもの声は丸聞こえだったので、若干イライラしながら調理を進める。
あいつらのテーブルに出す料理にはわさびでも入れてやろうかしら? と考えてしまう。
その子はオレの彼女なのでね? あんまりジロジロみないでくれますかね?
いやいや、落ち着こう。野郎どもが色めき立つのもわからんでもない。
イーリスが美人なのは当然だが、このファミレスの制服はすごく目を引くデザインをしているのだ。
美少女が着れば、嫌でも目についてしまうだろう。少し広がったフレアスカートは結構短いし、メイド服みたいなエプロン一体型の上着は白と黄緑の縦線が入っていて、フリルもついているので可愛らしい。袖は肘くらいまでの長さで、ふんわり広がっている。
イーリスは、スカートの下にパンストを履いていて、姫ちゃんはニーソだった。
そして、もちろん、注目されているのはイーリスだけではないわけで。
「こちら、メロンクリームソーダになります。ちょっと! ここは勉強禁止よ!」
姫ちゃんがテーブルに向かったところで、お客さんのことを注意する。
「あ、ごめんなさい……」
「あんた、この前も注意したじゃない! 反省してないの!」
「あ……覚えててくれて……いえ! すみませんでした! ありがとうございます!」
高校生らしき二人が参考書をカバンに本をしまいながら頭を下げる。普通なら気まずくなるところだが、二人は目を輝かせていた。
「わかればいいのよ! ふん!」
「……なぁ、最高だろ? あの子」
「ああ……ツンデレっていいもんだったんだな……」
……なんだ、あのガキどもは?
もしや、姫ちゃんに怒られるのを期待してわざと怒られるようなことをしたのか?
そりゃあ、あんなに可愛い子に怒られたら嬉しいかもしれんが……
「あのぉ、白石さん」
「なに〜?」
「姫ちゃんっていつからここで働いてるんですか?」
「ん〜、二週間くらい前からだったかな?」
「まだ日が浅いんですね」
「だね〜。でも、彼女すごく優秀で、一日で全メニュー覚えちゃったし、もうベテランみたいなもんだよ〜。それに、問題があるお客さんにズバッと言ってくれるから助かってるんだ~」
「なるほど」
姫ちゃんはたった二週間で看板娘になりつつあるようだった。
それにしても、女神である彼女がなぜこんなところでアルバイトをしているのだろうか?
バイト終わりにでも聞いてみよう。そう考えながら、オレは自分の仕事に集中することにした。