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第30話 海に出発

 四人で海に行くことが決まったオレたちであったが、ファミレスは週末が忙しいということで、海遊びは平日に決行することとなった。


 計画をしてから翌々週の木曜日、海水浴当日となり、イーリスと一緒に自宅を出る。

 最寄り駅の駅前に行くと、姫ちゃんが既に到着していたので、「おはよ~」と手を振って近づく。

 しかし、あいつは、チラリとオレたちのことを見ただけで、特に挨拶も返さずスマホをいじり続けていた。

 このクソガキめ。女神だからって挨拶くらいはしなさいよね?


 オレがクソガキの教育について頭を悩ませていると、ロータリーの前に車が停まり、窓から成瀬さんが声をかけてくれた。


「おまたせー!」


 オレたち三人に向かって、運転席から手を振る成瀬さん。彼女が乗ってきたのは、ファミリー用ワンボックスの最高級モデルだった。さすがお嬢様といった車である。


「じゃ! あとの運転は天城さんよろしくね!」


「あいあい」


 成瀬さんがキーを投げてきたので、それを受け取り運転席に乗り込む。すると、助手席に誰が座るかで揉めだしてしまった。


「それでは、私は勇者ダンの隣に」


「ちょっと! 姫がこいつの隣なんだから!」


「ダメダメ! 二人は後ろ! そして私がその真ん中! これは譲れないわ!」


 成瀬さんが二人の背中を押し、強引に後部座席に押し込む。


「それじゃあ! レッツラゴー!」


 美少女二人に挟まれた成瀬さんはご機嫌だ。成瀬さんに腕を組まれたイーリスは無表情で、姫ちゃんは自分の腕と足を組みながらムスッと外を見ている。暴れ出したりしないことを確認して声をかける。


「あーい。それじゃ、車出すから、シートベルトよろしくー」


 『ま、姫ちゃんもそのうち打ち解けるだろ』そう思って車を動かした。


 しばらく走っていると、成瀬さんに頻繁に話しかけられた姫ちゃんは、無視するのを諦めて相手をするようになり、成瀬さんが持ってきたお菓子で餌付けされるようになった。

 最初は警戒していたが、一口食べると表情が柔らかくなり、気に入ったことがすぐにわかる。成瀬さんも気づいたようで嬉しそうだ。


 その様子がなんだか微笑ましくて、こっそりと口角を上げるオレだった。姫ちゃんは誤解されやすい子だから、成瀬さんのように積極的に距離をつめようとしてくれる人は正直ありがたい。


 イーリスのときもそうだったが、成瀬さんは女神と仲良くなるのが上手いようだ。


 道中、特にトラブルもなく、一度サービスエリアで休憩を挟み、二時間ほど車を走らた。

 高速道路の橋の上から、日本海が見える。もう、目的地はすぐそこだ。


 高速道路を下りたあたりで、後部座席からこんな話が出る。


「あっちの世界にも車があれば魔王城まですぐ着くのに。ホントあっちは文明レベルが低くって不便よね」


「そうだよねー。ま、車があっても道路が途切れたら降りることになるけどね。あ、もう着くから、成瀬さん起こしてくれる?」


「了解。ちょっとあんた、着いたわよ。起きなさい」


 姫ちゃんが、自分の肩にもたれかかっていた成瀬さんを揺する。


「ふあ? ……あれ!? 私、寝てた!?」


「ぐーすかね」


「ご、ごめんね! 重かったよね?」


「別に、重くなんかないわよ」


「ほんとに? 姫ちゃん、優しい……」


 うっとりする成瀬さんに対して、姫ちゃんは頬を赤くしてキレ顔を作っていた。


「優しくなんてないわよ!」


「なに怒ってるんですか? ああ、照れてるんですね」


「照れてないわよ!」


 そう言う姫ちゃんの顔は、やっぱり赤かった。イーリスの読み通りのようだ。


 ギャーギャーと否定する姫ちゃんをなだめながら車をおり、トランクへと向かう。荷物を持てるだけ持って、準備万端だ。


「とりあえず海の家で着替えましょ!」


「そうだね。行こう」


 ついに、海水浴のはじまりだ。そういえば、こっちの世界の海で遊ぶのは初めてだった気がする。凄く楽しみである。


「女の子三人の水着を身近で鑑賞できるなんてラッキーですね! 聞いてます? 天城さんに言ってるんですよ?」


「……」


 オレは成瀬さんを無視して海の家を目指すことにした。

 別に、そんなことを期待して『楽しみだ』と言ったわけではない。ホントだ。

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