車から海の家まで歩いて、みんなの荷物を下ろす。オレが先に着替えてくるように言われたので、ささっと海パンに着替えて、女子たちとバトンタッチした。
彼女たちを見送ったあと、貴重品をロッカーに入れ、砂浜にレジャーシートを広げ、ビーチパラソルを設置する。レジャーシートに座って待っていると、三人が戻ってきた。
「……」
おぉぉ……と声が漏れそうになるが、ごくりと我慢して、みんなのことを見た。
イーリスは、白ベースにボタニカル柄の刺繍が入ったビキニを着ていた。柄自体も白色で主張は激しくないがオシャレな水着だ。胸元と腰あたりに細いリボンが垂れ下がって可愛らしさもある。それと、水着に合わせるように、同じ柄のパレオを腰に巻いていて、片足が隠れるようにしていた。
風になびいて白い足が見え隠れするのが。なんだか、逆にエッ……いや、なんでもない。
足には、くるぶしに巻きつくようなサンダルを履いていて、こちらは茶色だった。
うむ。やはり、オレの彼女は超絶美人である。完璧だ。親指を立てたくなったが、他の2人の目があるのでやめておく。
姫ちゃんの方はというと、スカートが一体になっているビキニだった。黒ベースで、薔薇と棘のようなデザインが白色で描かれている。つつましい胸を隠すようにフリルがついていて、全体的に幼げなデザインな気がする。
しかし、頭にサングラスなんか乗せちゃって、偉そうにしながら、黒のサンダルを履いてこちらに歩いてくる。まだ遊ぶ前だというのに棒アイスを舐めながら、ムスッとした顔で近づいてきた。
なんというか、クソガキみがすごい……まぁ、かわいいんやけどさ……
「どうですか! この二人!」
成瀬さんが『じじゃーん!』と言わんばかりのジェスチャーでイーリスと姫ちゃんに手を広げる。
「水着! 私が選んだんです! 私が! 天才かも!」
興奮気味で口調がおかしい。
まぁ、たしかに二人によく似合った水着というのは認めざるを得ない。
成瀬さんも整ったスタイルにシンプルなビキニ姿で、その辺の男の注目を集めていたが、そんなことよりも、自分がプロデュースした2人に夢中のようだった。
「あはは、さすが成瀬さん、センス抜群だね」
「でしょでしょ! でも、それもこれも素材がいいからよ! あぁ可愛い! 二人ともサイコー!」
たしかに最高だ。しかし、なんと声をかけたものか。悩んでいるとイーリスが近づいてくる。
「勇者ダン、私の水着、どうですか?」
前屈みになって質問され、無意識に胸元に目がいってしまう。谷間がすんごい。イーリスさん、無防備すぎませんか?
「……えーっと……」
「へんたい……」
オレの目線に気づいたのか、姫ちゃんはジト目だ。
「んん! すごく似合ってる! イーリスの綺麗な金髪に似合ういい水着だ! 清楚! 清楚の塊!」
「ありがとうございます。可愛いですか?」
「うん! 可愛いし美人!」
「そうですか」
満足したようだ。オレの隣にスッと腰掛ける。
「ふんっ!」
姫ちゃんは腕を組んでソッポを向いていた。しかしオレの前からは動かない。『褒めろ』ということだろう。
「姫ちゃんの水着も、よく似合ってるよ。姫ちゃんらしい、可愛らしさと強さが共存してるというか、とにかく可愛い! キュート! プリチー!」
「ふん! 別に嬉しくないんだから! べー!」
大げさに褒めてみたら、頬を染めて舌を出されてしまった。
今日も絶好調である。ツンデレがくせになりそうだ。
「さっそく遊びましょ! 天城さんも!」
「そうだね。浮き輪使う?」
「姫が使うわ」
さっき膨らませておいたドーナツ型の浮き輪を差し出すと、当然のように姫ちゃんにひったくられた。当然だがお礼はない。このクソガキめ……
「それじゃ海にいきましょー! ゴーゴー!」
成瀬さんがイーリスの手を引いて走っていった。オレと姫ちゃんも後を追うことにする。
一足先に成瀬さんとイーリスが海にバシャバシャと入る。
「えいえい!」
そして、成瀬さんが中腰になってイーリスに水をかけはじめた。
「成瀬さん、やめてください」
イーリスは抗議だけ述べて立ちっぱである。
「もう! イーリスちゃんもやり返して! イチャイチャしましょ♪」
「……」
「イーリス、こういうのはお互いに水をかけ合って遊ぶものだよ?」
「わかりました。それでは」
オレに言われ、やっと動き出す。パシャパシャと成瀬さんに反撃した。
「いやーん! つめたーい! うふふ! 彼女ができたみたい!」
……あの人、やっぱりそっち系なのか?
「はい、これ」
「ん? あー、うん」
姫ちゃんが浮き輪についている紐を渡してくる。とりあえず受け取る。
それから、浮き輪を浮かべお尻をスポッと乗せて、ぷかぷか浮き出した。サングラスをかけ、空を見上げる。
……んん? 紐を引っ張れと? なるほど……さすがお姫様……
「はやくしなさいよ」
「あいあい……」
オレは苦笑いしながら紐を引っ張った。イーリスたちの近くをぐるぐると泳ぐ。
「なかなかいい乗り物ね。褒めてあげてもいいわ」
ぐぬぬ……そこは「ありがとう、楽しいわ」くらい言ってほしいものだ。
「なによ? 文句あるわけ?」
オレが泳ぐのをやめてクソガキのことを見ていると、サングラスを持ち上げて、オレのことを睨んできた。
「……いんや? 姫ちゃんみたいに可愛い子と遊べて幸せだー(棒」
「……ふん。良い心がけね」
「ぐぬぬ……」
そんな感じで、オレたちは、しばらく海水浴を楽しんだ。