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第33話 不幸の連鎖

 砂に埋められたまま待つこと数分、イーリスたちが海の家から帰ってきて、オレも砂の中から解放してもらうことができた。


 四人でレジャーシートに移動し、焼きそばを食べていると、なんだか空が曇ってくる。


「え? あれ? 嘘でしょ? 雨とか降らないよね?」


 成瀬さんがパラソルから顔を出し、空を見上げる。


「いえ、あれは雨雲ですね。少ししたら降ってきます」


「そんなー! 天気予報だとしばらく晴れだって言ってたのに! なんでー! 運悪すぎー!」


「……」


 頭を抱える成瀬さんの隣で、姫ちゃんが箸を止め、下を向く。


 『姫のせいだ。姫のせいでまた不幸が……』そう思っているのがすぐわかった。


「姫ちゃん、オレが――」


 なんとかする、そう言おうとしたところ――


「きゃー!」


 海の方から女の人の悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ!?」


 立ち上がって、そちらを見る。


「サメだー!」


 近くにいた男の人が叫んで海から逃げてくる。しかし、悲鳴をあげた女性は、まだ、海の中にいた。


 さっき、姫ちゃんを砂から助けてくれたママさんだった。それに、その人の腕の中には、あの小さな女の子もいる。


「助けてー! 誰か! この子だけでも!」


「くっ!」


 オレがどう対応するか、一瞬悩んだとき、オレの横を姫ちゃんが駆け抜けていった。


「姫ちゃん!? イーリスちゃん! 姫ちゃんが!」


「大丈夫です。姫さんなら」


「でも!」


 そう、大丈夫だ。彼女なら。


 水着のまま駆けていく姫ちゃんは、片手を腰のあたりにかざす。そこに黒いモヤが現れ、刀が顕現した。それを抜き切ると同時に、海の上に飛び込む。


 しかし、沈まない。ママさんと女の子の元まで水面を走っていく。


「あれって……一体……」


 驚愕する成瀬さんを置いて、オレはいつでもフォローできる位置まで近づいた。


 姫ちゃんはもう敵を捕捉し、目の前まで迫っていた。


「喰らいなさい。姫の一撃、食べさせてあげる」


 呟いてから一閃。


 腰を下げ、滑り込むように下段に切り裂き、海水もろとも、サメの体を両断した。


 海面が割れ、血飛沫が上がる。その血でママさんと女の子は血まみれになってしまった。


 呆然とする親子、それに海水浴場に来ていた人たちも。


 海面の上に立ち、振り返った姫ちゃんを見て、


「ひっ!?」


 ママさんが短い悲鳴をあげた。


 助けてもらったにしては、違和感のある態度だ。でも、その理由は思い当たった。


「……角?」


 女の子が姫ちゃんを見て口を開いた。


 そう、姫ちゃんには角が生えていたのだ。おでこから二本、黒い角が姿を現していた。いや、今生えたわけじゃない。オレが渡した指輪のおかげで見えなくなっていただけだ。それが今は見えている。力を使ったから。


「あ、あの……あなたは……」


 姫は、姫のことを見て、怯えた顔を見せる人間に冷たい眼差しを向けていた。


 みんな、姫の角を見ると、こんな顔をする。

 そして、みんなこんなことを言う。

 『怖い』、『恐ろしい』、『気持ち悪い』、どれも聞き飽きた。でも、聞きたくない言葉だ。


 だけど、姫が拒絶したって、どうせ、そんな感情をぶつけられる。


 『ああ、助けなければ良かったのかな……なんで、こんなことしちゃったんだろ……』


 姫は左手につけた指輪を見て、あのときのことを思い出していた。せっかく、あいつにこれを貰ってからは楽しく過ごせてたのに。


 また、角のことで嫌なことを言われるんだ……

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