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第34話 あの時もらった指輪

 あいつの32回目の異世界転生、姫と一緒に転生したのは、二回目だった。


 数年ぶりに会うあいつは、一回目の時と同じ調子で、姫のことを怖がりもせず、気軽に話しかけてきた。

 だから姫も、最初から素の性格で話すことにした。


 あいつはツンデレだとか、口が悪いとか言ってきたけど、結局、「姫ちゃんはそのままでいいよ」とかフォローしてくる。


 ふんっ! 別に嬉しくなんてないんだから!


 二回目の異世界転生では、一回目の教訓を活かし、偏見を持つ仲間はやめようと話し合った。

 そうすると、必然と亜人の人ばかりのパーティになった。犬耳がついてる人や身体が毛むくじゃらの人、鱗がついてる人もいた。これで五人パーティだ。


 魔王討伐の旅をはじめて、途中までは順調だった。

 みんな、偏見に苦しんできた人たちだから、姫の角を見ても悪く言う人なんていなかった。

 こういう人たちとなら上手くやっていけるかも、そう思い始めた頃、あの事件が起きた。


 ある日のことだ。

 いつも通り、徒歩で魔王城を目指していたところ、前方から煙が上がっているのを見つけて、急いでそこに向かうことになった。


 丘を越えた先には村があって、大量の妖怪が押し寄せていた。人々が逃げまどい、泣き叫んでいる。


 だから、すぐに助けないといけないと思い、駆け出した。


 人間と妖怪の間に入って、詠唱を行う。


「凶を司る神により! 汝らに苦しみを与えよう! 他者を傷つける者にはそれ以上の痛みを与えよう! 毒霧! 包囲の陣!」


 指で印を描き、姫の着物の中から赤い霧が放出されていく。その霧が妖怪たちにまとわりつき、凄惨な断末魔と共に息絶えていった。


 もう八割は殺し終えただろうかというとき、村長らしき人物が姫のことを指差した。


「角じゃ! 角が生えておる! 悪魔! 悪鬼じゃ! みなのもの! やつを討ち取れ!」


「は?」


 姫には、おでこから二本、黒い角が生えている。【鬼】、日本でいうとそれに近いだろう。こいつにとっては、この角が不気味に映るようだ。


 姫の身体の一部なのに……

 なんでそんなことを言われないといけないのだろう……

 ムカつく……呪い殺してやろうか。


 暗い気持ちが広がっていき、黙っていると、クワや鎌など、農具を持った男たちに囲まれた。


 姫は、自分の感情の赴くままに、やつらに制裁を与えようと、ゆっくり腕をあげようとした。


 でも、そんな姫の前に、ダンのやつが走ってきて、両手を広げて庇ってくれる。


「待ってください! あなたたちだって見てたでしょう! この子はあなたたちを助けたんだ! 誰よりも早く、必死に駆けつけて! それをなんで!」


「そんなバカなことがあるか! 悪鬼のやることなど、わしらには計り知れん! 災いをもたらす前に退治するのじゃ!」


「こんな可愛い子のどこが! ……ふざけんな!ジジイ!!」


 ダンは激昂していた。


 こんなに怒ったダンを見るのは久しぶりだった。姫のことになると、いつもすごく怒ってくれる。


 姫の暗い感情は薄くなっていき、あたたかいものが広がっていくのがわかった。


 もう、村人たちに制裁を与えるとか、そんなことどうでも良くなってしまった。自然と口角が上がってしまう。


「もういい! いくぞ姫ちゃん! こんな村ほろんじまえ! ばーか!」


「ちょ! 痛いってば! 引っ張らないでよ!」


 強く手を引っ張られて、少し痛かった。でも、それ以上に嬉しかった。


 仲間の人たちは村のことを気にしてたけど、ついてきてくれた。


「こいつは勇者としては失格だ」


「だがしかし、我らが女神様を侮辱したのだからな。致し方ない。あれくらいの数ならば、彼らでもなんとかなるであろう」


 その日の夜、みんなで笑い合ったのをよく覚えている。


 たしかに、みんなが言う通り、ダンは『勇者としては失格』なのかもしれない。


 でも、『姫の、姫だけの勇者としては、失格なんかじゃなくって、百点満点』だった。


 それから一ヶ月して、ダンのやつが寄り道したいとか言い出して、変なダンジョンに付き合わされることになる。


 ダンジョンの最奥に眠っていたアイテムは、姿隠しの指輪。


「もし良かったら、これ」


 そう言って、あいつが、姫に指輪を渡してくれる。


「なによこれ?」


「自分の本当の姿を好きな相手にしか見せない魔道具らしい。魔力を使うと効果が切れる欠点はあるけど……」


「ふーん? だから?」


「もし、姫ちゃんが角のことで誤解を受けるならさ、その可愛い角、オレにだけ見せてくれれば良いと思って」


「……」


 嬉しい。姫のことを考えてこれを? すっごくすっごく嬉しい。


 それに、かっこいい。そう思った。


「ふんっ! まぁまぁな贈り物ね! 姫の奴隷にしてはまぁまぁなんじゃない! バーカ!」


 でも、姫は素直になれない。

 姫がプンプンしているのを見て、仲間たちは笑っている。ダンのやつも。


 ダンジョンを出てから、姫はこっそり左手の薬指に指輪をはめた。


「えへへ……」


 自然と笑顔になってしまう。


 姫が指輪を見つめていたら、犬耳の仲間がぼそりと呟くのが聞こえてきた。


「もう結婚しろよ……」


 そいつを姫が引っ叩いたことは、きっと、ダンのやつも覚えてるんだろうな。

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