姫ちゃんからデートに誘われた日から翌週の休日。
「おはよ……」
「おはよう……」
オレは、駅前で姫ちゃんと待ち合わせし、向き合っていた。結局、デートの誘惑には抗えなかったのだ。
いや、何度か断ろうとした。したのに、その度に成瀬さんとイーリスに邪魔された。『男らしくない』とか、『勇者ダンは女の子を悲しませません』とか言われて。
そんなこと言われたら断れないじゃないか……と諦めてここまでやってきたのだ。
「……なんかないわけ?」
「へ? あっ、そうだよね」
後ろに手を回し、もじもじしている姫ちゃん、『服を褒めろ』ということらしい。
今日の姫ちゃんは、ロリ系と地雷系を合わせたようなファッションをしていた。半袖の白いブラウスにはフリルがたくさんついていて、小さいリボンもところどころについている。
下はコルセット風のスカートで、お腹まですっぽり隠すようなものだった。腰回りの左右には小さいベルト、正面にはコルセットを締めるリボンがついている。飾りだとはわかっているがキュッとしまったくびれを見ると、本当にコルセットで絞っているのでは疑うほどスタイルが良い。スカートの柄は黒と白のチェック柄だった。
短いスカートに合わせるように黒いニーソックスを履いていて、黒のパンプスを合わせている。
すごく可愛いロリ美少女がそこにいた。
「可愛いよ……すごく……」
「……ふーん? もっと具体的に言えないわけ?」
「えっと……これは悪口じゃなくて褒め言葉なんだけど、姫ちゃんは幼なげな雰囲気があるから、そういう可愛い服がよく似合うと思う……姫ちゃんのツインテールと合わさって、すごくいい……」
「ふん! まぁまぁの褒め言葉ね! 及第点をあげるわ!」
今度は腕を組んでそっぽを向いてしまった。頬は赤いし、口元もニヤついている。いつもの照れ隠しだろう。
「ははは……」
オレはというと、『イーリスがいるのに、デートなんてしていいのか……』という思いが拭いきれず、『何を浮ついた言葉を言ってるんだ』と罪悪感にかられていた。
「じゃあ行くわよ!」
「あ、うん。どこに行くの?」
「ショッピングモールに行きたいわ! こっちよ!」
「わかった。行こっか」
姫ちゃんに誘導され、隣を歩く。とても楽しそうにしている横顔を見て、雑念が消えていく。
そうだな、うん、今日は楽しもう。
気持ちを切り替えて、ちゃんと姫ちゃんに集中することにした。
駅前からバスに乗って、二十分くらいのところにある大型ショッピングモールまでやってきた。
「ほら! 行くわよ!」
「おっけー」
楽しそうに歩いていく姫ちゃんについて店内に入り、今日のお目当てを確認することにした。
「今日って、何か買いたいものとかあるの?」
「特にないけど、あんたと来たかったから! ……あ! 違うんだから!」
失言した。それに気づいて頬を染め、走って行ってしまう。
その様子にときめいてしまった。
「……小悪魔すぎんだろ……」
ボソッと呟いて、オレも少し走り、後ろから声をかける。
「と、とりあえずさ! 服でも見て、ぷらぷらしようよ!」
「……う、うん……」
オレの言葉を聞いて、歩く速度を緩めてくれた。ゆっくりと隣に並んで、少し下を向きながらオレの横を歩く。その女の子の頬は赤くって、オレもついドキドキしてしまう。
上手く話せないまま、二人で適当な店に入ることにした。アクセサリーのお店だ。ネックレスやイヤリング、指輪なんかもある。
「姫ちゃんに似合いそうだね」
「そう?」
「うん。この辺りとかさ、姫ちゃんの目の色と同じでイイんじゃない?」
姫ちゃんの目を見てから、赤い宝石のようなものがついたネックレスを指差してみた。
「んー、まぁまぁね」
「ふむ? あまりお気に入りめさなかったようで?」
「姫はアクセサリーとか好きじゃないから、ほら? 姫って何もつけなくても可愛いでしょ?」
ふふん、と鼻を鳴らしながら、髪をかけあげていた。
「ほほう?」
と、ナルシスト発言にツッコミもせず相槌を打つ。
アクセサリーが嫌いというのは知らなかったので、そっちが気になったのだ。だって、だとしたら、オレがプレゼントしたアレは……
「あ! あんたにもらったこれは別よ!」
気まずそうにするオレに、姫ちゃんがすぐに気づいて、薬指につけた指輪を見せてくれた。二回目の転生のときにオレが渡した姿隠しの指輪だ。
「これは大切なもので! ずっとつけてるの! これは特別だから! あっ……あう……でも、これは……ホントの気持ちよ……」
「……なんか、今日は嬉しいことばっか言ってくれるね……ありがと……」
「っ!? べつに! ……うん……」
また怒るかと思ったが、今度は素直に受け止めてくれた。
オレも恥ずかしくなって、ぽりぽりと頬をかく。
今日の姫ちゃんはどこかいつもと違うな、このときはそれくらいにしか考えていなかった。