ショッピングモールでぷらぷらすること一時間とちょっと、何軒か店を周り、今度は男性向けの服屋にやってきた。
「あんたの服、姫が選んであげてもいいわよ!」
「おお、いいの?」
「姫がもっとカッコよくしてあげるわ!」
「もっと? もっとってことは、今もなかなかいけてるってことかな?」
ニヤリと少しふざけてみる。どうせ、否定してくることだろう。
「……」
さっきまでニコニコしてたのに、ゆっくりと真顔になってしまった。
そのリアクションは想定外で、若干凹む。
「調子に乗ってすみませんでした……」
「……っこいいわ……」
「え?」
「もう言わない!」
ぷんぷんしながら、服を選び出してしまう姫ちゃん。
「……」
オレは後ろでその様子を黙って見つめる。
あの子は、ぷんぷんしてるのに頬は赤い。確かにさっき、オレのことを褒めてくれたんだと確信を持つ。
姫ちゃんから『かっこいい』なんて言われたの、はじめてじゃないか?
また、鼓動が早くなり、ぽそりとお礼の言葉が口から出た。
「……ありがと」
「なにがよ!」
「なんかすみません!」
今度は怒られたのでぺこぺこしながら姫ちゃんが服を選び終わるのを待つ。
結局、何着か試着させてもらい、そのうち一番イイと言ってくれた半袖のサマージャケットを購入することにした。お会計を済ませて袋を受け取る。
「ありがとね、選んでくれて。すごく嬉しいよ」
「感謝しなさいよね!」
「うん。ありがと。あとさ」
「なによ!」
「改めて言うとまた怒らせちゃうかもだけど、姫ちゃんにカッコいいって言ってもらうの、結構、いや、かなり嬉しいかも……」
「なな!? なによ突然!」
「だって! 旅してた時は一回も言ってくれなかったじゃん! そんなこと!」
「言わなくてもわかるでしょ! なんでわかんないの! ばかばか!」
「すぐバカって言う! バカって言われた覚えしかない!」
「そんなことないわよ! あ! あんたは! いっつも! いつだって、かっこよ……ッー! もういいから! ご飯行くわよ! バーカ!」
「あっ……ぐぬぬ……」
なんだかモヤモヤする。
今日の姫ちゃんはすごく嬉しいことを何度も言ってくれる。だけど、一緒に異世界で旅をしていたときは本当に悪口しか言われなかったんだ。
でも、今日の姫ちゃんの態度と、イーリスが『姫さんは勇者ダンが好きです』とか言ったせいで、妙に意識してしまっていた。
あの子、ほ、本当に、オレのこと、好きなのかな?
……いやいや! 勘違いすんなクソ童貞ヤロー! 可愛い彼女が奇跡的にできたからって調子に乗るんじゃない!
……でも、気になる……姫ちゃんの気持ち……
オレは、どうやって姫ちゃんの気持ちを確認するのか、その術を考えながらフードコートへ向かう姫ちゃんを追いかけた。
「あんた、なに食べるのよ?」
「姫ちゃんは?」
「まずは姫の質問に答えなさいよね! このグズ!」
ふーむ? いつもの調子に戻ってきたような? いや、さっきの照れ隠しの反動か?
「んー、じゃあ、あそこのちょっと豪華なハンバーガーで」
指を刺した先には、有名チェーン店とは別の本格アメリカンなハンバーガー屋さんがあった。他にも牛丼やとんかつ、うどん屋もあるが、デートなので少しオシャレめなものを選んでみたのだ。
「なら姫もそれにするわ」
「おっけ、じゃ姫ちゃんは席で待ってて」
「姫も並ぶ」
「いいの?」
「いいって言ってるでしょ! 一緒に! ……いたいから……」
小さく縮まって、両手の指を合わせてもじもじしていた。
「……」
あれ? これマジで好かれてる?
……ははは、いやいやまさかね……でも、さすがにこれは……
その後食べたハンバーガーの味は、正直よくわからなかった。
もうちょっとで食べ終わるという頃、姫ちゃんがある親子のことをじっと見ていることに気づく。
若い夫婦と三歳くらいの男の子だ。子供用の椅子に座った男の子にパパさんが離乳食を食べさせている。
「あの人たちがどうかしたの?」
「……ううん、べつに……ちょっと、あんたとの三回目の転生のときのこと、思い出してただけ」
「ふむ? なんかあったっけ?」
「あのときの勇者パーティは、みんな子持ちだったじゃない」
「ああ、たしかにね」
姫ちゃんが飲み物を両手で持ちながら、遠い目をしているのを見て、オレも三回目の転生のことを思い出し始めた。