目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第39話 憧れを覚えた日

「今回も余裕だったな!」


「どこがよ! ギリギリだったじゃない! このバカ!」


 姫とダンの異世界転生三回目は、もうすぐ幕を閉じようとしていた。今しがた、魔王を倒したからだ。


「ギリギリだったかなぁ?」


「ま、俺たちがいなかったら、おまえさんは死んでたな」


 四十歳手前のオッサンガンナーがニヒルな笑みを作って、ダンのやつに答える。


 他の仲間たちも笑っていた。こいつ以外に、回復役のおっさん僧侶、熟練の魔法使いの女性が今回のパーティメンバーだ。みんな結婚していて、子どもがいるのについてきてくれた頼りになる仲間たちだ。


 もちろん、姫の角や不幸を呼ぶ体質のことも受け入れてくれている。


「それにしてもおまえさ、姫ちゃんのこと好きすぎだろ。姫ちゃんのことばっか気にして油断するなよ」


 旅の終わりを少し寂しく思っていると、オッサンガンナーがおかしなことを言い出した。


「は、はぁ? 何言ってんだ、おまえ」


 あいつがあたふたしはじめる。


「いや、おまえが本気を出し渋ってたのって、今回の魔王が鬼だったからだろ? 姫ちゃんの角に似た角が生えていたから」


「はぁ!? ちげーし!」


「あんた! 変なこと言わないでよ!」


 二人してオッサンに迫った。おかしなことを言わないでほしい。


「おお? おまえら、相変わらずいいコンビだな……」


「うふふ、二人をからかうのはそれくらいにして、帰りましょ? 私たちの子どもたちが待ってるわ」


「そうだな。たしかに。このガキどもの相手より自分のガキの相手だ。頼むよ」


「任せなさい。順番に自宅まで送ってあげるわね」


 そして、熟練魔法使いがスカイムーブの呪文を唱え出した。空中に透明な光の筒が現れて、その筒が遥か向こうまで繋がっていく。


「接続完了。いくわよ?」


 みんなが頷いたら、熟練魔法使いが杖を構え、みんなが光の筒に吸い込まれていく。筒の中を高速移動して、仲間の家にあっという間に到着した。まずはオッサンガンナーの家だ。


「パパー!」


「パパがかえってきた!」


 双子の男の子たちが駆け寄ってきた。


「おお! オレの愛するガキども! こいこい!」


 オッサンが二人を抱きしめて持ち上げる。


「パパ、パパ! おかえり!」


「ヒゲ! もじゃもじゃ!」


「ははは! パパはヒゲが似合うだろー?」


「ジャリジャリー!」


「おじさん!」


「なんだとー! 悪い子たちだなー! 食べちゃうぞ! がおー!」


「いやー! ママー!」


「ママー! パパが怪獣さん!」


「あなた……おかえりなさい……」


 家の中から、オッサンガンナーの奥さんが姿を現し、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。魔王討伐の旅からの帰還だ。『もしかしたら、夫は帰って来ないかも』と考えていたのかもしれない。


「ママ? ママが泣いてる!?」


「パパが泣かしたー!」


「そうだ! ……な! ……パパが泣かしたかも! ……おいで!」


「あなた!」


「愛してる!」


「はい! わ、私もよ! おかえりなさい!」


 抱き合いながら泣く二人を見て、ダンたちは口角を上げていた。


 でも、子どもたちはなにが起きているのかわからない様子だった。


「二人とも泣いてる! なんでなんで!」


「よちよちしてあげる!」


 姫も改めて彼らのことを見る。たしかに、みんなが笑顔になるのもわかるような気がした。なにか、心が温かくなるのを感じたからだ。


「良かったわ。ちゃんと帰って来れて……」


 だから、自然とそう言うことができた。


「だね。全員無事で、本当に良かった」


 しばらく、みんなで彼らのことを見守る。それから手を振って、オッサン僧侶の家に行き、最後に熟練魔法使いの家で解散となった。


 みんな、同じように家族に迎えられ、幸せそうな笑顔を見せてくれた。


 その笑顔がとても印象的だった。


 姫とダンは、姫たちしかいない草原に立って、向かい合う。


 こいつとの三回目の旅もおしまいだ。名残惜しいし、それに――


「寂しいわ……」


「あー……うん、そうだね……」


 姫とダンの足元に帰還の魔法陣が描かれ始める。神が手配したのだろう。


「みんな……幸せそうで……姫、羨ましかった……」


 さっきの仲間たちのことを思い出し、温かい気持ちと同時に、嫉妬のようなものを感じていた。


「たしかになー……」


「……姫には、家族がいないから……」


 悲しくなって、下を向く。


「……オレたち、もう家族みたいなもんだろ?」


「え?」


 顔をあげると、ダンのやつが少し照れたような顔で、でも、真っ直ぐ姫のことを見てくれていた。


「家族?」

「だってオレたち、もう三回も旅して、何年も一緒にいたじゃん。助け合って、支え合って。だから、オレたちは家族だ」


「家族……これが……」


 胸の前で両手を握った。さっきまでの暗い気持ちは無くなって、今はポカポカしていた。


 足元の魔法陣が光り出す。お別れだ。


「っ! 姫! また、あんたと旅したいわ!」


「おう! そんときはよろしくな!」


 そう言って、笑顔を見せるあいつが姿を消す。現世に戻されたんだ。


「家族……姫にも家族が出来たんだ……」


 嬉しかった。温かかった。


 姫は、疫病神と言われて、天界でも他人と距離を置いていた。女神たちは気にしてないようだったけど、ひどいことを言われるのが怖くて、自分から近づこうとはしなかった。


 だから、ずっと一人なんだと思ってた。


 今は、違う。姫にも大切な家族が出来たんだ、一人じゃないって、思うことができている。


 でも、姫は、家族と言われたことで、また仲間たちを思い出す。

 抱き合う夫婦たち、抱きつく子どもたち。


「姫も、あんな風になりたいな……ダンと……」


 そして姫は、天界に転送された。


 次にあいつと会えるのはいつだろうか。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?