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第44話 霧刃の金神姫

 戦いのさなか、姫ちゃんからの謎の質問は続いていた。


「……あんたさっき、犯罪者たちを拘束したわね?」


「ああ、そうだね。さすがにあれはやりすぎじゃない? オレたちのケンカに他人を巻き込むのは違うよね?」


「うるさいうるさい! あんたが最初に向かった方角はなに!」


「……北東」


「次に向かったのは!」


「……南西、だけど……」


「鬼門! 裏鬼門! 『四つ』! 『五つ』! ……ふふ、もうちょっとね?」


「何する気なの?」


「もう少しでわかるわ。ほらほら! 全力で来なさいよ!」


 また高速で距離を詰められ、何発も打ち込まれて後退を余儀なくされる。


 あまりの猛攻にジリジリと下がらせられ、すぐ後ろに鳥居がきてしまった。背中が触れる。もう下がれない。


 ニヤリ。不敵な笑みを浮かべる姫ちゃんが低く構え、刀を鞘にしまう。抜刀術がくる。身構えると、すぐに刀を抜いて一瞬のうちに五発の剣戟を繰り出してきた。


 オレ自身への剣筋はなんとか捌ききったが、背中の鳥居がバラバラに斬り刻まれ、背中の支えが消える。

 それと同時に腕に蹴りを入れられ、勢いを殺すために後ろに飛び退いた。


 階段を外れ、土の地面に足をつく。


「ふふ……ねえ? あんた、それ、何踏んでるの?」


「え?」


 指摘され、オレは自分の足元を見る。


「なんだこれ?」


 オレの足元には不自然に盛られた土の塊があった。それを踏んづけて崩してしまったみたいだ。


「崩すこと勿れ、『六つ』。あと一つよ?」


 呪術の儀式が完成しつつあるようだ。


 でも、そんなことはどうでも良かった。


 オレは、目の前の女の子と仲直りしたい、その一心しか考えてなかった。


 だから、どうしてこんな中途半端な態度を取ってしまったのか、素直な気持ちを口にすることに決める。


「姫ちゃん……あのさ、オレ、姫ちゃんのこと……たぶん、好きなんだと思う……だけどね。姫ちゃんは、ずっとオレのことバカだって言ってて。ああ、この子は妹みたいなもんだな、家族にはなれたけど、そういう、男女の、特別な関係にはなれないんだなって諦めたんだ……」


「……なによそれ……そんなの知らない……」


 姫ちゃんが笑うのをやめ、オレの言葉を聞いてくれる。


「初めて言ったからね……だから、最近の、こっちで会った姫ちゃんと、異世界での姫ちゃんとのギャップに戸惑ったんだ。戸惑って、そんなはずがない。姫ちゃんがオレのこと好きなはずがないって思って、中途半端な態度をとった。……だから、ごめん……」


「……それで?」


「そ、それで? ……えっとえっと……」


「あんた……イーリスと結婚したの?」


「け、結婚? 結婚は、まだ、してない」


「まだ……」


「……お付き合いはさせてもらってます……」


「っ!? 待ち人こず! あんたに彼女なんて百万年早いわ! あんたは姫とまた異世界に行って! 姫と結婚するだから! 『七つ』!」


「ちょ! ちょっと待って! その件についてはもう一度話し合おう!」


「うるさいバカ!! 殺す殺す!! 殺して姫の物にしてやるんだから!」


 言いながら、姫ちゃんが刀を前にかざし、一文字の構えを取る。刀の先端に左手の掌をかざした。


 刀の前に魔法陣が展開される。


「七つの厄災を集約し! 七つの苦しみを持って必殺とせん! 我! 凶を司る神! 霧刃の金神姫なり! 【七殺】!!」


 詠唱が終わると、オレの頭上に七つの魔法陣が現れた。


 なんだこれ!? まずい! 逃げないと!


 本能的に危機を察して逃げようとしたときには、身体が動かなくなっていた。


「一つ……」


「ぐっ!?」


 姫ちゃんが呟くと、とんでもない重力で押し潰されそうになる。


「ガントレットブースト! 身体強化!」


 白金の徹甲を腕に顕現させ、重力に耐える。


「二つ……」


「がぼぼ!?」


 あたり一面が水に覆われ、水球の中に閉じ込められた。


「バーストリンク!!」


 身体を溶岩のように熱くし、水球をすべて蒸発させ、脱出する。


「三つ……」


 バシッ! オレの左手が勝手に動き、頭スレスレのところで弓矢を受け止める。


 どこから現れた? オート防御スキルをオンにしてなかったら頭を貫かれていた。


「四つ……五つ……六つ……」


 足元に黒い炎、首に白蛇が巻きつき、毒霧が肺に叩き込まれる。


「炎熱耐性スキル最大! 破魔の陣! 全てを浄化せよ! ホーリーヴェール!」


「……七つ……」


 姫ちゃんが少し寂しそうな顔をして、左手を前に出した。


 手のひらをオレに向けて、握り潰す。


「ガハッ!?」


 オレは胸を押さえてうずくまり、吐血する。心臓を潰された。


 膝から地面に崩れ落ちる。


「……これで……あんたは姫の物よ……あっちで、絶対惚れさせてやるんだから……」


 姫ちゃんが近づいてきて、頭上で声を発する。


「ぐぼっ! ……オレはもう、姫ちゃんに惚れてるよ……」


「嘘よ……」


「嘘じゃない……」


「うそうそ! あんたのことなんか大っ嫌い! 嫌い嫌い!! 好きなら! 姫の物になってよ! 大っ嫌いなんだから!!」


「……リザレクション」


 オレの身体が光り輝き、心臓が再生される。


 息ができるようになり、立ち上がった。


 あの子はもう、下を向いて、何もしてこない。苦しそうに、歯を食いしばっていた。

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