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異世界図書館
異世界図書館
笹虎生光
異世界ファンタジーダークファンタジー
2025年07月06日
公開日
1.7万字
連載中
今、ネットの一部で奇妙な噂が広がっている。  それは ── 異世界図書館  ある日、突然自宅の郵便受けに差出人不明の貸出カードが届く。  そこに記された住所へ向かうと、何もないはずの 夜の空き地に“図書館”が現れるという。  この図書館にある本はただの“本”ではない。  貸出カードを本の裏のポケットに差し込むと、本の世界に吸い込まれ、物語の登場人物として転送されてしまう。  本の返却期限は7日間。  その期間内に物語を完結させなければ、  “この世から”消える。  だが、物語を完結させた者には、  “特別な力”が与えられる。  その力は運命をも変えることができる。  誰もが一度は思ったはずだ。  「こんな人生は嫌だ。やり直したい……」と。  この図書館は、その願いを叶えてくれる。

第1話 貸出カードと空き地の扉

「……ほ、ほんとに……あった……」


 僕は、その光景に足を止めたまま、ただ呆然と立ち尽くして"そこ"を見ていた。

 人気のない住宅街の外れ──夜の空き地に、確かに何かが存在していた。

 こんなもの、昼間に通ったときにはなかった。……いや、そもそもこんなの現実にあるのがおかしい。


 だけど、そこにあるのだ。


 ──なにかが。


 僕はゆっくりと胸ポケットに手を差し込み、カードを取り出す。

 【貸出カード】──今朝、家の郵便受けに入っていたものだ。

 宛名には僕の名前、そしてこの空き地の住所。

 最初はくだらない悪戯だと思った。僕は小学校から高校の今までずっと、クラスで浮いた存在だったから。

 いや、浮くことすら烏滸がましい、誰も僕にまともに話しかけてこないし、何かあると笑い者にされる。

 そんな毎日には、もう慣れてしまっていた。


 ……でも、それでも、ほんの少しだけ、心のどこかで信じたかった。

 ネットで囁かれていた噂。


 ──異世界図書館。


 ある日突然貸出カードが届き、書かれた住所へ向かうと、夜の空き地に“図書館”が現れる。


「……ほんとに、あったんだ……」


 この場所で、現実から逃げ出せるなら。

 この場所で、僕の人生を変えられるのなら。


 胸の奥で何かが静かに揺れた。


「……でも、怖い……」


 足がすくむ。この先に進むと、もう元には戻れない気がする。


 でも──


「……このまま、明日を迎える方が……よっぽど怖い」


 僕は深く息を吸って、小さく吐いた。

 そして、そっと、足元の立ち入り禁止と書かれた低い柵をまたいだ。


 その瞬間、空気が変わった。

 音が遠のき、世界の輪郭が静かに滲む。冷たい夜の風が頬を撫でる。


 僕は、扉の前に立っていた。

 カードを握りしめながら、ゆっくりとその手を取っ手に伸ばす。


 ギィ……。


 扉が重々しく開いた。

 その奥には、まるで夢の中のような静かな図書館が、ひっそりと佇んでいた。

 入ると奥の方から女性のような声が聞こえてきた。


???「お待ちしておりました。神谷れい様。」

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