「違う、違うの! 私、そんなつもりなかったの!」
私は必死で目の前の男から逃れようとしていた。端正な顔立ちにブラウンの短髪、透き通るような碧い瞳──ものすごく好みの男性。でも彼は、私の手首を掴んで離してくれない。もう片方の手には抜き身の剣。
「囀るな、この悪女!」
男性は素敵な声で、けれど私を大声で罵る。そう、私はこの台詞が大好きだった。
「どうしたの!?」
駆けつけてくる鈴のような少女の声に、たくさんの足音。おそらくは護衛騎士たちの。
(もうだめ!)
このままでは王女殺人未遂の私に待っているのは処刑台。私は渾身の力でその男性の手を振り払った。
「待て!」
(待たない!)
私は手にしていた小瓶の蓋を開けた。中身の透明な液体を一息に飲み干す。人々の声が遠くなる。
ギロチンより、毒薬のほうがマシだわ──!