深い森の奥、草木をかき分けて歩くと大きく古めかしい茶色の扉が目の前に立ちはばかった。扉の横には緑の色の服を着た妖精が右左へと浮遊している。
「いらっしゃいませ。森に迷いこんだお客様かな? ここに着いたら最後、後戻りはできないよ。この扉を開けて進まないと前には行けない。ほら、後ろを見て、炎が出てる。山火事だ」
「な?! それは大変だ。早く出口を」
木こりのレオは、慌ててだんだんと扉をたたく。たたいた扉が光り出す。
「たたかないでよ。扉は神聖なものなんだから」
妖精のユリウスが、大きな扉に触れると、全部が緑色の光に包まれた。見ると、扉に書かれた文字がゆっくりと光り出した。
「なんだ。これ」
「1000文字の扉だよ。これの1文字を押すと、さてどうなるかな?」
端から端まで1000文字で埋め尽くされた扉に、レオは困惑した。
「どれを押せばいいんだ?!」
「間違った文字を押すと扉が迫ってくるからね。後ろには炎があるし……急いだ方がいいよ」
「な、なんだって?!」
扉に記された1000文字とはこの物語の全部の文字のことだ。どれが正解だというのか。レオは悩みに悩んだ。
「そしたら、『正』だ。これならどうだ」
レオは正解の『正』の文字を押してみた。扉は内側へと迫ってくる。間違っていたようだ。
「ちくしょう!? ヒントはないか?」
「それは無理だねぇ。教えたら、もう炎の中へおさらばさ。僕も君も!」
「な、くっ……。俺が頑張って解くしかないってことか! あー、もう。ひらけごま!」
「ふふふ……それで開くと思うの?」
ユリウスは小ばかにしたように笑う。さらに扉は前へ動き出している。炎もだんだんと近づいてきた。あと数メートルのところでパチパチと木が燃えている。レオは、ダンッと扉をたたく。
「たたいても無理だよ」
「わかっているけど! これはどうだ」
レオは『開』という文字を押した。すると、押し寄せてくるのかと思ったら、扉は大きな音を立てて開き始めた。炎はすぐ目の前に迫っている。
「開いた。急がないと!」
レオは開いた扉の向こう側へと行こうとしたが、ユリウスは拍子抜けをして体が固まっていた。
「何してるんだ。お前も燃えるぞ」
「嘘でしょう!?」
レオはユリウスの手を引っ張って扉の向こう側へ連れ出す。バチンと大きな音で扉が閉まった。
「な、なんでわかった?」
「『開』か『解』かなと思ってたから」
ユリウスも知らなかった答えだ。レオは、鼻の下をこすって胸を張った。