『ねぇ、お金貸してよぉ』
『どれくらい困ってるの?』
『お水が、飲めないくらい……』
ライブ配信のやり取りの画面がSNSで流れていた。年の差ある関係でお金のやり取りを頻繁に行われていたようだ。その後、金銭トラブルに巻き込まれた彼女は借りた男に殺されてしまっている。文字とともに音声も流れた。
そのニュースを見た5歳の男の子の來斗は、内容を理解したのか、持っていたスマホのおもちゃとぬいぐるみをいじり始めた。
「ねぇねぇ、お金貸してよぉー」
「えー、どれくらい必要なの?」
大人さながらの名演技に母はそっと抜けだして、キッチンで皿を洗いながら、耳をダンボにして聞いていた。來斗は、ハリネズミとくじらのぬいぐるみで、やり取りを続ける。
「そうだなぁ。グミ100個分?」
「グミでいいの? それならいくらでもあげちゃうよ」
お金のやり取りではなく、グミであるところが可愛いと思ってしまう。
「やっぱ、やめた。仮面ライ〇ーの変身タグ100個」
「あ、ああー。それでいいんだぁ。うん、準備できるよ」
「……でもなぁ、100個もあってもつまらないかもなぁ」
「……んじゃ、何がいいのさ?」
キッチンで聞いていた母はごくりと唾を飲み込んだ。
「”無限の愛”!」
來斗は、ハリネズミのぬいぐるみを持って、くじらに言う。
「ぶぅーーーーー」
母は話を聞きながら、飲んでいたコーヒーをキッチンの床にぶちまけた。
リビングでぬいぐるみを使って、ごっご遊びしていた來斗は、母の様子を見て、気持ち悪がった。
「ママぁ、そこで何してるの? ……まさか、僕の話聞いてたわけじゃないよね??」
「聞いてない! 聞いてない! ほら、見て。ママ、耳にイヤホンつけてたから聞こえなかったよ?」
「ふーん……」
母は、左耳だけイヤホンつけてたことを実はポケットからもう1つだけ出して両耳つけてたとごまかした。音楽を聴いていたのは事実だが、片耳では來斗の話を聞いていた。子供もしっかりと大人が話す言葉やニュースを聞いているんだなと感じた母だった。
「お金、お金って、愛はお金で買えないんだよ!!」
すぐに始まるごっご遊び。少し大きな声で話す來斗。手にはしっかりとぬいぐるみがある。
「ど、どこで覚えてきたの、その言葉……」
キッチンでボソッと話す母をぎろりと睨む來斗がいた。母は、何も言わずに黙々と皿を洗い続ける。來斗は夢中になってごっこ遊びを続けるのであった。聞いてはいけないものを見てしまった母なのだった。